トランプ政権の女性報道官

米時間28日にトランプ政権の新しい報道官が、ホワイトハウスの記者室で定例の記者会見を開いた。ホワイトハウスの報道官といえば、政権の顔であり、大統領を代弁する重要な役回りを担う人物である。トランプ氏はそのポジションにキャロライン・レビット氏(Karoline Leavitt・27)という、これまでの報道官としては最年少で、しかも女性を選んだ。大変結構なことかと思う。

Karoline Leavitt - Wikipedia
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トランプ氏は第一期にもサラ・サンダーズ氏という女性報道官(2017年-2019年・当時34歳)を任命しており、それまで男性が務めてきた報道官という重要な役回りを女性に託したという点で、貴重なことかと思う。トランプ氏という共和党本流の大統領であれば、保守的な男性を選びそうなものだが、明敏で才識がある女性を選んだという点で、個人的には評価したい。

レビット氏は米東部ニューハンプシャー州アトキンソンという人口1万人にも満たない小さな町で生まれ育っている。カソリック教で、父親はアイスクリーム店を営んでいた。同州にあるセント・アンセルム大学在学中にフォックス・ニュースやホワイトハウス記者室でインターンを経験。そして22歳の時に連邦下院議員選挙に出馬する。選挙には敗れたが、その動きがトランプ氏の目にとまり、2024年に同氏の大統領選の広報担当者として採用される。そしてこれからはホワイトハウスの報道官である。

前述のサンダーズ氏は報道官を辞めたあと、アーカンソー州の州知事になっているが、レビット氏は「将来は大統領」という夢を抱いていてもおかしくない。日本でもこうした有能な女性がでてきてはいるが、女性の側だけでなく男性側が胸襟をひらいて受け入れていく必要がある。

米国では何割がトランプ大統領を歓迎しているか

米時間20日、トランプ新政権が発足し、トランプ氏は就任演説で「今まさに米国の黄金時代が始まる」という言葉を使って前向きな姿勢をみせた。世界中のメディアがトランプ氏にスポットライトを当てた就任式だったので、お祭りムードが漂った。

ただ、3億4100万人といわれる米国の人口の何割がトランプ氏を推したのだろうか。トランプ氏がカマラ・ハリス氏に勝ったのは間違いないが、圧勝したわけではない。実際の得票数は 7716万8458対7474万9891で約240万票の差だった。得票率では 49.9%対48.3%という僅差で、巷ではトランプ氏が圧勝したかに思われているが、ほぼ互角の戦いだった。

実は大統領選といういうのは、民主・共和両党の候補がほぼ均等に票を取り合うという流れできている。私は1992年から現地取材をしているが、たとえば2004年のジョージ・ブッシュ氏対ジョン・ケリー氏の戦いも、50.73%対48.27%という接戦でブッシュ氏が勝っている。

というのも、一般有権者に支持政党を尋ねると、3割弱が民主党と答え、やはり3割弱が共和党支持と答えるのである。例えば昨年のギャラップ社による調査でも、28%が共和党支持で民主党支持も28%だった。興味深いのは、残りの43%は無党派(インディペンデント)という立場でいることだ。4年ごとの選挙で、無党派の有権者は民主党に一票を入れたり共和党に一票いれたりする。つまり、大統領選というのは、無党派の有権者をどれだけ獲得できるかにかかっているのだ。

昨年はトランプ支持者が「やや多かった(240万票)」ためにハリス氏は敗れたが、3年後はわからない。年齢を考えるとトランプ氏は1期4年を務めるだけかと思うが、「黄金時代」はそう長くは続かないだろう。

米国民がトランプを選んだ理由

いよいよ明日(米時間1月20日)、ドナルド・トランプ氏(78)が就任式を迎える。第2期トランプ政権がスタートする前に、なぜ米国民はトランプ氏を再び大統領に選んだのか、あらためて考えてみたいと思う。

トランプ氏はいわば「いわくつき」の政治家であり、大統領になってほしくない人物との思いをもつ国民も多かったが、選挙では勝利を勝ちとる。2度の弾劾訴追だけでなく、元不倫相手への口止め料支払いなど、罪状34件で有罪判決を受けていた政治家であるにもかかわらずである。

右派の人たちの多くは、左寄りのメディアがトランプ氏の言説をことごとく歪曲していると主張する。CNNなどはフェイクニュースと呼ばれ、トランプの発言を正確に伝えていないと言われた。こうした反トランプ陣営を跳ね返す意味でも、トランプ支持を押し進めるべきであるとの動きが共和党内に醸成されていった。

さらに、トランプ氏はレーガン大統領が国民に投げかけた「あなたは4年前よりも暮らしがよくなっていますか」という質問を発した。第1期目のトランプ政権では減税、経済成長、株価の上昇があったことから、多くの国民はあの4年間をふたたび味わいたいとの思いがあった。バイデン政権下では物価が20%近くあがったため、あのよき4年間をもう1度との思いを抱いた。2024年の選挙戦では経済政策でトランプ氏はカマラ・ハリス氏を大きくリード。多くの共和党員にとって、経済が最大の関心事であることから、最終的にトランプ氏が選ばれたと思われる。

トランプ氏が選ばれたもう一つの理由は移民問題である。バイデン政権下では、国境を不法に越境する人数が急増した。不法移民が起因する犯罪も増えたことから、トランプ氏は国境を閉鎖し、壁を建設し、1100万といわれる不法移民の強制送還を提唱する。こうした政策を過激と捉える人もいるが、民主党の中からも「不法移民は返すべき」との意見もあることから、トランプ氏への支持が集まった。

こうしたことを考慮すると、トランプ氏が大統領に選ばれた理由が浮き上がってくる。右派の中にはトランプ氏を「左派に傾いた米国を救う救世主」と呼ぶ人たちもおり、来週からのトランプ氏の手腕が見ものである。

トランプ新政権の税制

今月20日にトランプ新政権がスタートする。過去に大統領選で破れ、再びホワイトハウスに戻った大統領にグローバー・クリーブランド氏(第22代と第24代)がいるが、トランプ氏は返り咲きとしては2人目である。続けて2期8年を務めるよりも、距離をおいて大統領職を考察できるという点でプラス要素が考えられるので、トランプ氏には1期目よりも精到な執務を行なってほしいものである。

すでにさまざまなところでトランプ新政権の政策が論じられているが、私が個人的に強い関心を寄せているのが税制である。個人に限らず法人でも、基本的に税率がさがって減税措置がとられれば嬉しいが、国家財政を考えると歳入が減るということなので一長一短である。政権発足前に発表されているトランプ税制によれば、個人の所得税も法人税も下げられることになっている。

法人税は現行の21%から20%に引き下げられるが、米国内で生産を行なっている企業に対しては15%までの税率が適用される。トランプ氏は先月、ニューヨークで公演したときに、「減税によって経済成長を後押しする」と強調。ただ減税によって税収が減るため、政府にとっては痛手となる。減収分はどうするのか。

ここまででわかっているのは、関税を上げて減税で穴埋めをするということだ。一律関税として輸入品に10%から20%の税率を課す。中国製品に対しては60%という数字がでており、政権発足後の米中貿易戦争が懸念されている。トランプ氏の意図する税率が施行された場合、平均関税率は現行の2%から18%近くまで上昇する(米ワシントンのタックス・ファンデーション)とみられている。

関税を課すかどうかの判断は、米国では連邦議会がおこなうが、トランプ氏は議会の承認なしで行うつもりで、すでに「オレオレ流」がでてきている。米国が他国の商品に関税をかけたばあい、他国からの報復関税が待っていることも考慮しなくてはいけない。トランプ氏らしいと言えばそれまでだが、他国への配慮も政治家には必須である。