存続の危機:Sports Illustrated

数日前、とんでもないニュースが飛び込んできて、久しぶりに目を大きく見開いてしまった。

米国では「スポーツ・ジャーナリズムのバイブル」とまで言われたスポーツ誌「スポーツ・イラストレイテッド(Sport Illustrated)」が、全従業員の解雇を予定しているというのだ。報道によると、同誌の発行元が親会社に支払うライセンス料を支払うことができなくなったため、社員を解雇する意向だという。

Sports Illustrated Layoffs: Possibly Entire Editorial Staff Let Go

かつては300万の購読者をかかえ、スポーツファン必読の週刊誌だったスポーツ・イラストレイテッド。 日本だけでなく近年は米国でも紙媒体の売り上げは伸び悩んでおり、2018年までは週刊誌だったが、20年からは月刊誌になっていた。私が米ワシントンに住んでいた時(1982年から2007年)、同誌を購読していたのを覚えている。他の媒体では見られない斬新な写真が多く、記事もしっかりした取材をしたうえで書かれていた。

ただネットの興隆はあまりにもすさまじく、紙の雑誌は次第に消え去る運命にあるのかもしれない。実は、同誌はデジタル版( Sports Illustrated )も出しており、こちらの読者は着実に増えていて、昨年12月のネット上での訪問者数は5000万人を超えていた。この数字は4年前の2倍だが、多くの記事は無料であるため、それが売り上げの上昇には直結しなかった。

1954年創刊なので今年で70年目を迎えており、なんとか存続してほしいと思うが、時代の流れはその願いに逆行しているようだ。

アメリカンドリームは過去のものか?

アメリカンドリームというものはまだあるのだろうか。

米ウォールストリート・ジャーナル紙とシカゴ大学の全国世論調査センター(NORC)が共同で行った世論調査によると、2012年には回答者の53%が「まだある」と答えていたが、最新の調査では36%だけがアメリカンドリームを信じていることがわかった。

一生懸命働けば、人種や年齢などに関係なく、どんな人でもアメリカンドリームをつかむことができるとの思いが以前はあったが、そうした思いを抱く人は年を追うごとに減ってきている。

同調査では、政治的な側面だけでなく、米国の経済的脆さが際立ってきていることもわかった。しかも若い世代にアメリカンドリームへの猜疑心が強いという結果が出た。65歳以上の人は48%が今でもアメリカンドリームを信じているが、50歳未満では28%という数字である。

また「自分たちの子どもの世代は今よりも生活が豊かになっているか」との質問では、たった19%だけが良くなっていると回答した。この数字は同調査が1990年に始まって以来、最低である。

今でも世界中から夢を抱いてアメリカにやってくる人たちは多いが、アメリカンドリームが失われている現実をどう受けとめるのだろうか。

日米の平均的な借金額

インターネットで調べものをしている時、アメリカ人の借金額という文字が目に入った。こうした数字はときどき目にするが、正確に覚えているわけではない。

Investopediaというサイトが出していたアメリカ人の平均借金額は$11,548(約179万円)。これは個人的な用途による借金額であり、住宅ローンは入らない。179万円を多いと判断するか少ないと判断するかは微妙なところだ。

それでは日本ではどれくらいなのか。指定信用情報機関のCICとJICCによると、1人あたりの平均借入額は約65万円だった。また借金をしている人の割合は個人であれば15.3%、2人以上の世帯では20.4%だった。ここでも住宅ローンは入っておらず、クレジットカードによる借り入れや大きな買い物などによる借金である。

当サイトで2カ月前、60代の平均貯蓄額について記した(60代の平均貯蓄額)が、今回は借金額を記した。

アメリカと銃

アメリカのメイン州で現地時間25日、精神を病んだ40歳の男が銃を乱射して18人を殺害し、13人に怪我を負わせる事件が起きた。ロバート・カード容疑者は米軍予備役兵で銃の扱いにはなれていた男だった。

「またか」と多くの方は思ったかと思う。今年に入り、米国ではすでに500件以上の銃撃事件が起き、600人以上が亡くなっている。銃規制が叫ばれてはいるが、銃を使った事件は減らず、むしろ増加傾向にある。

私がアメリカに住んでいた時、最初に取材をした銃撃事件は1992年にルイジアナ州バトンルージュ市で起きた日本人留学生射殺事件だった。名古屋市から交換留学生としてきていた服部剛丈(はっとり・よしひろ)君(当時16歳)が、ロドニー・ピアーズという男に44口径マグナムで至近距離から射殺されたのだ。

服部君はその日、ハロウィーンパーティーに参加するために友人と出向いたが、訪れる家を間違えてピアーズ家のドアを叩いた。ピアーズは「フリーズ(止まれ)」と言ったが服部君は意味がわからず、そのままピアーズのほうに近づいて撃たれてしまった。

アメリカにはいま4億7000万丁以上の銃があると言われている。10年ほど前は3億丁と言われたが、過去20年増加傾向にある。過去2年ほどは減る傾向にあるが、それでも毎年あらたに約1600万丁が買われている。服部君が殺害された2年後にブレイディ法という銃規制が施行されたが、10年間の時限立法だったため、2004年に失効している。

私はアメリカに四半世紀もいたので、アメリカ人が銃を持ちたがる理由がよくわかっているつもりだ。ヒトコトで言えば「自衛のため」なのである。犯罪者の多くが銃を手にしていれば、「自分も手にして防衛するしかない」と自然に考える。犯罪が増えれば増えるほど「銃を用意しなくてはいけない」との思いに駆られる。入手も極めて簡単なため、一応手元に置いておきたくなるのだ。

この流れを止めることは容易ではないが、法律で規制すると同時に、銃を手放すことによってより安全な社会をつくることができるといった考えを流布させる必要がある。

トランプ:3度目の起訴でも痛打にならず

来年11月の米大統領選に出馬しているトランプ前大統領が3日、再び起訴された。これで3度目である。今回は2020年の選挙結果を覆そうとした不正行為を含めた4つの罪状で起訴され、連邦地裁に出頭したが、本人はまるで他人事のような表情だった。起訴されたことについて痛打になっていないのだ。

というのも、1回目、2回目の起訴のあと、同氏のもとには通常よりも多額の献金額が舞い込んでおり、今回も億円単位のカネが期待できるからである。当ブログで何度も記しているが、大統領選ではこれまで「より多くの選挙資金を集めた候補が勝つ」というジンクスがあり、トランプ氏はそのことを痛いほど知っているから、今回も「私の当選を確実にするにはあと1回起訴されること」と述べているほどなのだ。

トランプ氏を支持する共和党の有権者はこうした起訴を民主党サイドによる陰謀と受けとる傾向があり、有権者は反発するように、より多くの資金をトランプ氏に献金する流れがある。

トランプ氏の広報官であるスティーブン・チャン氏は今春、こう述べていた。

「トランプ氏の起訴は政治的迫害以外のなにものでもない。米国の司法制度を武器化してトランプ氏を標的にし、選挙妨害をしようとしているのだ」

共和党内でのトランプ氏の支持率はいま、党内のどの候補よりも高く、裁判になって有罪が確定し、実質的に選挙活動ができなくならない限り、トランプ氏はこのまま突き進むだろうと思う。

ある意味で「異常な事態」が米政界で起きていると言っても過言ではない。これが今の米政治の姿である。