ハッとした瞬間のあと

先日、地下鉄の日比谷線に乗ったときのことだ。

車内は比較的すいていた。だが座れる場所があるわけではない。私はドア付近にたって、つり革につかまっていた。

ふと左側をみると、端正な顔立ちの女性が座っている。色白で肌つやもいい。鼻筋がとおり、横から見ただけでも眼光の鋭さがわかるほど眼が輝いていた。ショートヘアがよく似合う。

あまり凝視しては失礼なので、車内の動画スクリーンに眼をやった。だが、すぐに彼女の横顔をみてしまった。私の中にほのかな疑念が生まれていたからだ。

「もしかしたら男性・・・」

次の駅で席が空いたので腰を下ろした。女性の斜め前だった。

ハッとした。

正面からみると、紛れもなく男性だったからだ。女性に見えるわけがないくらい男らしい顔立ちをしている。男物の靴がなによりもの証拠で、間違いなく男性だった。

しかし、なぜ横から見たときに女性と間違えたのか。

目的の駅について私は立ちあがった。男性はまだ座っている。ドアに向かって歩く途中、最初に女性だと思った位置からチラ見した。

髭が薄く、肌が女性のような光沢を放っていることに気づいた。さらに髪の毛も、短いながらも艶のある女性のショートカットと言えるスタイルだった。

横顔と正面の印象が違う人は少なくないが、男と女を見紛えてしまう人はどれほどいるだろう。

「あの人は女性にたいそうモテるかもしれない」と思っているうちに改札を出ていた。