TPPと「世の中こんなもの」

今朝は5時に起きて、ラジオ出演(ベイFM)の準備をする。今日のテーマはTPPだ。「いまさらながら」という感じではあるが、重要なトピックである。

2006年にTPPが始まった時はたった4カ国だけ(シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランド)の貿易協定で、小さな集まりだった。10年になってアメリカやオーストラリアなどが加わり、日本は13年に参加。最終的には12カ国、世界のGDPの4割をしめる大きな体制になった。

TPPが各国にどういう影響を与えるかについては、いまでも賛否両論がある。弱肉強食を前提とする新自由主義に反対する学者たちは、頑なに反対した。国内の農業従事者のほとんども反対。

首相の安倍も当初は反対していたが、のちに賛成にまわる。日本の大企業のほとんどはTPP推進派で、業種によって支持と反対が鮮明になっている。

各国の産業と市場にどういう影響がでるのか、本当のところはわからないというのが正しい判断だろうと思う。

なぜか。興味深い話がある。1994年1月、NAFTA(ナフタ・北米自由貿易協定)という自由貿易を推進する協定がアメリカとカナダ、メキシコの3国間で発効した。

発効前、経済学者の多くはNAFTAによってアメリカは隣国の市場を自国のように使えるので、輸出量が増えると読んだ。それまでの貿易赤字は解消にむかうと推測した。

だが結果はまったく逆だった。アメリカの対2国の貿易収支は94年以来、赤字が増え続け、累計赤字は1810億ドル(約21兆円)に達している。

「世の中こんなもの」と言えばそれまでだが、アメリカ産業界の損失は大きい。雇用は100万超が奪われたといわれる。

さらに、世界最大の農業大国であるアメリカがメキシコに安価な農作物を輸出したことで、メキシコの農業が壊滅的な打撃を受けた。それによって失業したメキシコの農業従事者がアメリカで仕事をしようと国境を越えている。

大統領候補のドナルド・トランプは国境に万里の長城を築くと言っているが、大量の失業者をだすきっかけはNAFTAにあったのだ。

この帰結をNAFTA締結前に正確に読んだ人はほとんどいない。私はワシントンでNAFTAの交渉をずっと見守っていたが、反対派こそいたものの、いまのような貿易赤字の拡大を見越した人は記憶にない。

TPPでも同じように、発効後に予想外のことが起きる可能性は十分にある。

なにしろ「世の中こんなもの」なのだから。