つかの間サーファー

「エッ、その歳でサーフィン?危なくない?」

妻はそう言って送りだした。

同業者で30年来の友人K氏は長年サーフィンを楽しんでいる。彼からの誘いをうけて、10月中旬、海に入ることにした。

湘南のビーチであれば、たぶんやっていなかったが、伊豆半島の下田市にある多々戸海岸という知る人ぞ知る絶好のサーフィンスポットに行くという。しかも泊まりがけで、宿には温泉もついている。

ビーチは緩やかな弧を描いていた。毎朝散歩したくなるほどの綺麗な砂浜だ。水も透明度が高い。

ただ真夏ではない。サーフィンそのものより、水が冷たくないか心配していた。だが彼が貸してくれたウェットツーツを着用して入ると1時間ずっと水の中に浸かっていても寒さは感じなかった。むしろ水から上がった時の方が寒い。

実は、サーフィンは初めてではない。10年ほど前にハワイで一度やったことがある。その時はポリネシア人のインストラクターの教えもあり、一度でボードの上に立った。

「俺が教えると2人に1人は立つ」

こう豪語した通り、私は呆気なく立って30メートルほどを走り抜けた。1度だけではなかった。

「意外に簡単じゃない」

浅はかな思い込みを抱いたまま自宅に戻った。

それから随分時間が経過した。人生2度目のサーフィンはそう甘くなかった。2日間でボードに立って海面を進んだと言えるのは1度だけ。まあ、なんとかボードの上に立ちましたというのが数度。

1人でボードに腰掛け、海面で波を待っている間にもバランスを崩して海中に落ちる。パドリングでは右に重心が流れるクセがあり、それでまたポチャン。

周囲にはサーフィン歴10年以上と思われるような老若男女が何人もいる。スッと波をつかみ、立ち上がってビーチの方へ離れていく。沖からの眺めは斬新だった。

私は肋骨の下(ボードが当たる)を痛め、両膝にあざを作り、鼻水を垂らして早々に陸に上がった。何ごとも奥が深いことを思い知るのである。

それにしてもあのハワイの楽なサーフィンはなんだったのだろうか。