福島瑞穂の会見

「何も変わっていない」

今月2日、外国特派員協会で行われた社民党党首、福島瑞穂の会見に出席して胸に去来した思いである。21世紀になっても旧社会党の考え方をそのまま持ち続け、いまや国民にほとんど支持されていない現実を前にしても何も変わっていない。

「最新の共同通信の世論調査では、社民党の政党支持率は1.3%と低迷している。この現実をどうとらえていますか」

福島にこう訊くと彼女は言った。

「なかなか支持率が上向かないというのは事実。ただ国会内での議席数は少なくともいい仕事をしているという自負はある。参院選の選挙キャンペーンを好機ととらえて、もっと支持を確保していきたい」

参院選にむけてのスローガンは「9条と年金があぶない」。マニフェストも読んだが、数議席しか持たない社民党がそのマニフェストを実現できる可能性はなく、夢物語で終わっている。

旧社会党は労働者の味方といわれた。いまでも福島は労働法制を整えていくと口にするが、いまや共産党よりも支持率は低く、100人に1人しか支持されていない中で理想論に終わっており、寂寥感さえ漂う。

野党でも、民主党には9条改憲に前向きな議員も大勢いるが、福島はそこは譲れないという。「9条の解釈で民主党と差別化をはかる」。何があっても護憲の姿勢は変えない。

それが彼女らしさなのだろうが、現実にそぐわない青臭い政治思想を持ちつづける限り、社民党の行き先はますます狭まるだろうし、このままでは将来、党の解散に追い込まれないとも限らない。そんな思いを抱いて会場を後にした。(敬称略)

アメリカ通の養成

6月16日の朝日新聞朝刊に興味深いコラム「私の視点」が載っていた。

ロバート・デュジャリックというテンプル大学日本校日本研究所長が、日米関係についての持論を展開していた。デュジャリックはワシントンのハドソン研究所というシンクタンクに何年もいた物静かな男で、在米中に何度か会ったことがある。ゴールドマンサックスで企業買収に携わったこともあり、国際関係を冷徹にみられる人物だ。

コラムは、日本が日米関係をワシントンの知日派に頼りすぎているという指摘と、本物のアメリカ通を養成すべきという、日本人の知識人からほとんど耳にしたことのない内容で秀逸だった。あまり人のコラムは褒めないが、読みながら「その通り」と言っていた。

これまで首相の安倍や駐米大使をはじめとした日本政府関係者がワシントンにおうかがいを立てるときは、アーミテージやグリーンといった知日派を窓口にすることが多かった。しかし二人はすでにブッシュ政権を去り、いまやホワイトハウスにも議会にも知日派はいない。

相変わらずアメリカ政府の顔色ばかりみている日本政府は、ホワイトハウスに直接、物を言うガッツもなければ体制もできていない。デュジャリックはそんな弱腰の日本に対し、知日派などに頼らずに本物のアメリカ通を養成し、ワシントンで機能するネットワークを築くべきだと説く。

一般的に、アメリカ通はたくさんいるように思われるが、実はそうした人間のほとんどは知日派のアメリカ人としか付き合っていないのが現実である。日本に関心などないアメリカ人と円滑に付き合える人間はごく少数であり、ワシントンで強い政治力を行使できる役人や民間人は稀である。これは25年の滞米生活の結論でもある。

ワシントンに来る外交官、学者、ジャーナリスト、そのほとんどがいまだに学ぶ姿勢でやってくる。学ぶことは悪くないが、勝負にでられないのである。そこまで行く前に、ほとんどの人は帰国の途につく。

英語力の不足がまず一つ。アメリカ文化を自分のものにできないのが二つ目。三つ目はアメリカを動かす度胸がないことである。

改正イラク特措法の成立で航空自衛隊のイラク派遣が8月以降も継続される。ほとんどシンボル的な意味合いしかない空自派遣が単に「アメリカのため」であることは明らかである。アメリカとうまくつき合うためには、笑顔で派遣を止める術を身につけなくてはいけない。もちろん派遣を中止してもアメリカとは仲良くやっていくのである。

本物のアメリカ通がほしい、、、。(敬称略)

社会保障番号

社会保険庁による年金記録の不備問題が尾を引いている。

今回の問題は、10年前に基礎年金番号が導入される前を対象にしているとばかり思っていたが、問題はもっと複雑だった。年金番号が導入されたあとも、一人に2つの違う番号が与えられたケースもあるし、番号があっても支払った年金が記録されていない場合もあり、混乱を極めていた。

日本政府はアメリカにならって、1997年に基礎年金番号を導入したが使いこなせていなかった。安倍政権は今後、その番号を年金だけでなく医療や介護にも使える「社会保障番号」として一元化するアイデアを出してきた。アメリカを一気に通り越して、ITカードにするという。

こうした不祥事がないと次になかなか進めないところが日本的であるが、IT化には賛成なので慎重に、同時に早急に進めてほしい。集団的自衛権や憲法第9条の改憲も同様である。平時では遅々として改憲の道をたどらないが、有事が発生したら短期間でまとまるのが日本である。

アメリカが「社会保障番号」を導入したのは1936年のことである。最初は年金記録を管理することを目的にしたが、徐々に用途が広がった。その証拠に、最近は年金を支払わない子供たちでも、ほとんどの子が「社会保障番号」を持つ。

86年以前にはほとんどなかったが、扶養者としての記録が必要になったことによる。現在は生まれてすぐに子供の番号の申請をする親が増えた。だが番号取得は今でも義務ではない。

「社会保障番号」は今では年金や税金、医療、身分証明などさまざまな分野で使われている。私が住んでいたバージニア州では(多くの州も同じ)、運転免許証の登録番号が「社会保障番号」と同じであった。社会保障局(SSA)だけでなく国税局(IRS)や陸運局(MVO)、金融機関、学校、会社などがこの9桁の番号を使っている。

アメリカには戸籍がないので「社会保障番号」を使って政府や企業、団体が管理目的のために使用しているわけだ。国民の間ではあまりにも一般化されているため、違和感を覚える人は多くないが、番号を盗用された犯罪が起きていることも事実だ。ただ利便性の方がまさっているし、私は日本はやっとここまで来たかとさえ思う。

犯罪や個人情報保護の心配はわからなくもないが、システムの重要度は高度3万メールル上を行くといった印象だ。完璧なシステムはない。まず構築してから精度をあげていけばいい。

アメリカの社会保障局は毎年、一枚の通知を送付してくる。”アメリカ政府にしては”親切なことで、老後、私が給付される年金額を教えてくれるのだ。アメリカの場合、支払い額によって給付額が違うので、年々その額は変化している。私は50歳なので給付されるまでにずいぶんと時間があるが、一応「これだけお支払いしますよ」という納付額が記載されている。

日本の社会保険庁が「社会保障番号」を導入してIT化する時に求められるのが透明性である。どれだけのカネが入り、どう使われているのか、そしてどれだけ国民に給付するのか、納付者一人一人に通知してほしいものである。

相変わらずアメリカにかぶれた意見かもしれないが、ご参考まで。

ヒラリーへの不満

またまた大統領選挙の話で申し訳ないが、5月4日、東部ニューハンプシャー州で民主党候補8人による討論会が開かれた。

本選挙の投票日は来年11月なので1年5ヵ月も先だが、すでに2回目の討論会を行った。討論会翌日、ヒラリーの選挙対策委員会委員長のパティ・ドイルからまたEメールがきて、ヒラリーのすごさは討論会でよく示されたと思うと言ってきた。

その数日前には、夫であるビル・クリントンからサイン入りのEメールがきて、「ぜひ日曜夜7時にCNNにチャンネルを合わせて、私の知るヒラリーの本当の姿を見てください。彼女がこの国を改革し、リードしていくアイデアと経験にあふれた候補であることがわかると思います」とベタ褒めである。ビルはまたホワイトハウスで寝起きしたいという欲望があるように思えるほどである。

以前にも書いたが、私は直接ビルとドイルを知るわけではない。ヒラリーのメールリストに名前が登録されているので送られてくるだけだ。ワシントンからの土産のようなものである。

ヒラリーが支持率で先頭を走ることは誰もが知る。黒人候補のオバマよりも、ルックスがいい前上院議員のエドワードよりも確実に民主党の推薦候補になる可能性が高い。

争点はイラクで、3人ともイラク戦争を終わらせるべきだという点では一致しているが、いつから米軍を撤退させるかで意見が割れている。先頭ランナーのヒラリーは戦争を終わらせたあと、どうするかに言及していない。今回の討論会でもそのあたりの踏み込みが足りない。リーダー的な存在であるだけに、国民を納得させられるだけの話の内容は必須である。

終わらせようとの思いはアメリカ国民だけでなく、世界的な願いである。米軍を撤退させるだけで終わりとするのか、その先を見据えた具体的な妙案があるのか、そのあたりは見えていない。

ドイルに確認のEメールを送っているが、返事はまだない。(敬称略)

不動産バブルの嘘

東京にもどってきて気づくのは、アメリカ嫌いの人が多くなったということである。

これはブッシュの影響が大きいのだろうと思う。ブッシュ・イコール・アメリカという図式は短絡的であると誰もが分かっていながら、アメリカ人が選んで大統領にしたのだからアメリカそのものがあまり好きではなくなったというのだ。

その人たちにとって、アメリカが外交政策で失敗したり、経済が破綻したりというニュースは胸中に一瞬、さわやかな風が吹くような感覚らしい。90年代後半から続いている「不動産バブルの崩壊」というアメリカ発のニュースについても、「ヤッタ」という声を聞いた。

人生の半分がアメリカだったわたしにしてみると、複雑である。

不動産価格の高騰がバブルという説はエコノミストの間でも分かれるが、わたしはバブルという言葉はあたっていないと考える。メディアが記事のタイトルとして打ちやすいので連発しているのが真相だろう。

確かに過去10年、多くの都市で価格の高騰がみられたが、過去半世紀、アメリカの不動産はずっと右肩あがりできており、上昇率がそれまでより高かっただけでバブルとは呼べない。上昇しずぎた地域があるのは確かだが、すでに1割から2割の価格調整(減少)があっても、日本の不動産バブルが弾けたときのように、価格が半分以下になるという現象は起きていない。

ちなみにアメリカの中古住宅や中古マンションは、築30年であってもドンドンあがる。それは平均26年で建てかえる日本と、50年以上たった家屋でも普通に住むアメリカの違いである。新築を好む日本人と中古をまったくいとわないアメリカ人の差でもあるし、建築への姿勢の違いでもある。

全米不動産協会の報告によれば、昨年3月から今年3月にかけての一戸建て平均価格は21万7000ドルで、これは前年比で0.3%減少しているに過ぎない。地域によっては下落幅がもっと大きいし、逆に上昇している大都市もあるので全米レベルでのバブル崩壊などという表現はまったく当たっていない。

こう書くと「ヤッタ」から「ガックリ」になるかもしれないが、冷静にアメリカを逆利用すればいいのだろうと思う。日米の金利差を利用したキャリートレードは少し勉強すれば個人でも十分にできる。1%にも満たない日本の金融機関に個人資産を預けておく必要はない。もちろん、不動産を買える余裕のある方は長期的投資として、いまアメリカは「買い」である。(敬称略)