虚ろなプリンス

またしてもブログ更新が滞ってしまった。申し訳ない。

安倍辞任で、13日の朝日新聞朝刊に掲載予定だった「政治とカネ」についてのコラムが差し替えられてしまった。これでしばらく、年金と、自民党とカネの問題が忘れられてしまう。

私が日本の政治を眺めるときに通過させるフィルターは、他国の政治システムである。特にアメリカとの比較で日本の政治を少しでも客観的に浮き上がらせ、よりよき方向へ進んでもらえればと願う。

安倍の辞任は24時間たって、すでに語りつくされた感があるが、一言で述べるならば「自壊したプリンス」ということになる。テロ特措法、年金問題、閣僚の不祥事、孤立した宰相の地位、さらに内面に抱える問題もあろうが、これくらいで自身に白旗をあげていてはいけない。

日本はいま敵国から攻撃を受けた戦時下ではないし、核兵器でテロ攻撃を受けたわけでもない。安倍は自己内部で問題を肥大化させ、自身の首を絞め、いてもたってもいられなくなってしまった感が強い。

クリントンやブッシュもいくらでも危機はあった。だが、それで大統領を辞任したりはしないし、クリントンなどはそれをむしろ楽しむくらいの余裕があった。同情の声がほとんど聞かれないのは、プリンスの脆弱さを露呈させてしまったからだろう。逞しさという言葉ほど安倍と縁遠いものはない。

政治システムの上でも、宰相という職務を容易に投げ出せることにあらためて驚かされる。健康問題が1番のネックであれば、一時的に入院してもいい。政治の空白は許されないので、バトンを受け継ぐ人間がいなくてはいけないが、首相官邸に安倍を強固に支えるシステムがない。

ホワイトハウスという牙城には1000人ものブッシュをささえるスタッフがいる。独裁者をつくってはいけないが、システムとして行政府は機能する。あらためて日本の虚弱な行政府をみた思いである。

安倍辞任のニュースは国内ではもちろん大問題である。「世界各国も大きく取り上げた」と思われるだろうし、そうした報道もあった。だが、CNNの国際ニュースのランキングでは安倍辞任は12日、8位でしかない。トップはプーチンが内閣を総辞職させたニュースである。インドネシアの大地震が3位。北極海の氷が薄くなったというニュースが5位で安倍辞任よりも興味をもたれている。日本の位置はいま、このあたりである。

次期首相の顔ぶれを見ると、個人的には投票したくない政治家が並んでいる。日本にはこれくらいの人物しか首相の候補者がいないのかと思えるほどである。公選制の導入にはいろいろと問題もあるが、本当に国民から支持される首相を選出するためには、将来的に有権者の一票に期することがふさわしいだろう。

今しばらくは混沌の永田町を眺めることにする。(敬称略)

未開の大地

取材でロシア極東地方を訪れていた。

軍港としても名を馳せたウラジオストックとアムール川(中国名は黒龍江)の河畔に位置するハバロフスクの2都市である。土地の広がりはアメリカを想起させるし、町並みはヨーロッパの香りを漂わせる。

しかし南北アメリカ大陸やヨーロッパ、アジアの国々と明らかに違う何かがそこにある。世界から隔絶させたといえるほど町の風情が違うのである。日本の一般車道とほぼ同じ広さの歩道を歩きながら、「何が違うのか」を問い続けた。単なる道の広さではない。

フッとしたときに、西側の資本が入っていないことに気づいた。欧米だけでなく今や世界中を席巻するファーストフード店やカフェ、ブランド店がないのである。マクドナルドがない都市は久しぶりである。

それは英語の広告サインが見当たらないことでもあった。ほぼ100%といっていいくらいロシア語オンリーなのである。これほど世界の他地域と違う印象を受けた町は少ない。だが、町の中央に位置するレーニン広場からアムール川にいたる大通りはヨーロッパの洗練が漂う。19世紀に立てられた石造りのビルが粛然と並んでいる。町をゆく女性たちは手足がながく、凛としている。

モスクワはいまや世界的な高物価の都市として有名だが、ハバロフスクも決して安くない。東京とそれほど変わらないくらいである。だが、レストランやカフェ、ブティックの数は比較にならないほど少ない。

「いま日本企業がこの町に進出したら、何をやっても繁盛する」

こういう印象をハバロフスク出身の女性に話すと、すかさず返してきた。

「地理的には日本に近くとも、ほとんどの事がモスクワ経由で入るので世界から20年以上遅れている印象がある。それがこの町の欠点でもありいい点だ」

地元政府が西側企業の進出を阻止しているかのようですらある。粗雑な西側の商業主義をいまでも拒絶している気概さえあるが、市民はそれに飢えているようにも見えた。カネ儲けという観点からは、確実に未開の大地である。

英語が流暢だったロシア女性はとどまることを嫌うかのように言い放った。

「ソビエト連邦時代に比べれば、町は格段に明るくなった。あの頃はすべてが暗かった。モノがないということは、町だけでなく人の心も暗くする。ハバロフスクはまだまだこれから」

飛行機に乗れば、新潟空港まで1時間40分の距離にある場所だ。世界は広いということを改めて実感させられた。

新しい北米同盟

大手メディアが扱わないニュースは数多い。

日本のTVや新聞は官庁からの情報のたれ流しを止めないし、報道内容も画一的なのでどのメディアをみても同じようなニュースばかりだ。雑誌が独自の視点から報道を続けてはいるが、やはり今もっとも勢いのあるのはインターネットである。ただ玉石混交なので、何が本当なのかは自身で判断しなくてはいけない。

数ヶ月前、北米3国(アメリカ、カナダ、メキシコ)の新しい動きを知った。主要メディアではなくインターネットでの情報だった。私の勉強不足かもしれないが、少なくとも大手メディアでは大きな扱いをしていない内容である。

3国が新しい同盟関係を築くというニュースだった。北米3国の同盟といえば、すぐに北米自由貿易協定(NAFTA)が思い浮かぶが、それとは別に「北米の安全と繁栄のパートナーシップ(SPP)」という枠組みを立ち上げたという。

しかも2005年3月に、すでにテキサス州でブッシュとメキシコ大統領フォックス、カナダ首相ポール・マーティンの3首脳がSPPの第1回サミットを開いていた。NAFTAは関税の撤廃が最終ゴールだったが、SPPは北米版の欧州連合(EU)を目指していて、経済的な連携強化だけでなく安全保障やエネルギー資源での共有を掲げている。

ホワイトハウスのホームページにもSPPの記述があるし、一見、何の問題もないように見えるが、実はカナダが実質的にアメリカの内部に取り込まれることになると警鐘を鳴らす学者や政治家がずいぶんといる。

ハーバード大学で政治学博士号を取得し、現在はキレのあるニュース解説記事や書籍を記しているジェローム・コーシィは、SPPが本格始動すればカナダはアメリカのエネルギー資源の植民地(特に天然ガス)になると書いている。日本がアメリカの植民地であるといわれ続けているが、隣国だけに状況は日本よりも深刻だ。

ただ、これまでカナダはアメリカと運命共同体と呼べる距離にいながら、独自性を維持しつづけてきた。カナダらしさというのはアメリカと距離を置くことでさえあったが、SPPが本格始動したら、それが揺らぐ。

カナダとの政治・経済面での国境が今まで以上に「低く」なり、アメリカに利用されやすくなる。3国は共通通貨「アメロ(AMERO)」に移行する可能性さえあるという。このアメロについてはCNNでも報道があったが、今のところドルが消える可能性は低いし、米財務省も否定している。

ただコーシィは7月、SPPを問題視した著書「後発の偉大なアメリカ:メキシコとカナダとの融合(仮訳)」を出版し、3国の国民だけでなく世界中でSPPの事実がもっと公表されるべきだと主張している。

というのも、SPPは議会の承認も得ないまま、3国政府役人と大手企業の役員によってほとんど秘密裏に同盟が進められ、いつの間にかカナダもアメリカも一緒になっていたということになりかねないからだ。私は陰謀論をほとんど信じないが、SPPでは相互の利害が凝縮されていることに間違いない。

SPPの第3回目のサミットが8月20日からケベック州で開催される。3国の行政府はもちろんイケイケムードであるが、新しい3国同盟の真意と動向に注目しなくてはいけない。(敬称略)

福島瑞穂の会見

「何も変わっていない」

今月2日、外国特派員協会で行われた社民党党首、福島瑞穂の会見に出席して胸に去来した思いである。21世紀になっても旧社会党の考え方をそのまま持ち続け、いまや国民にほとんど支持されていない現実を前にしても何も変わっていない。

「最新の共同通信の世論調査では、社民党の政党支持率は1.3%と低迷している。この現実をどうとらえていますか」

福島にこう訊くと彼女は言った。

「なかなか支持率が上向かないというのは事実。ただ国会内での議席数は少なくともいい仕事をしているという自負はある。参院選の選挙キャンペーンを好機ととらえて、もっと支持を確保していきたい」

参院選にむけてのスローガンは「9条と年金があぶない」。マニフェストも読んだが、数議席しか持たない社民党がそのマニフェストを実現できる可能性はなく、夢物語で終わっている。

旧社会党は労働者の味方といわれた。いまでも福島は労働法制を整えていくと口にするが、いまや共産党よりも支持率は低く、100人に1人しか支持されていない中で理想論に終わっており、寂寥感さえ漂う。

野党でも、民主党には9条改憲に前向きな議員も大勢いるが、福島はそこは譲れないという。「9条の解釈で民主党と差別化をはかる」。何があっても護憲の姿勢は変えない。

それが彼女らしさなのだろうが、現実にそぐわない青臭い政治思想を持ちつづける限り、社民党の行き先はますます狭まるだろうし、このままでは将来、党の解散に追い込まれないとも限らない。そんな思いを抱いて会場を後にした。(敬称略)

アメリカ通の養成

6月16日の朝日新聞朝刊に興味深いコラム「私の視点」が載っていた。

ロバート・デュジャリックというテンプル大学日本校日本研究所長が、日米関係についての持論を展開していた。デュジャリックはワシントンのハドソン研究所というシンクタンクに何年もいた物静かな男で、在米中に何度か会ったことがある。ゴールドマンサックスで企業買収に携わったこともあり、国際関係を冷徹にみられる人物だ。

コラムは、日本が日米関係をワシントンの知日派に頼りすぎているという指摘と、本物のアメリカ通を養成すべきという、日本人の知識人からほとんど耳にしたことのない内容で秀逸だった。あまり人のコラムは褒めないが、読みながら「その通り」と言っていた。

これまで首相の安倍や駐米大使をはじめとした日本政府関係者がワシントンにおうかがいを立てるときは、アーミテージやグリーンといった知日派を窓口にすることが多かった。しかし二人はすでにブッシュ政権を去り、いまやホワイトハウスにも議会にも知日派はいない。

相変わらずアメリカ政府の顔色ばかりみている日本政府は、ホワイトハウスに直接、物を言うガッツもなければ体制もできていない。デュジャリックはそんな弱腰の日本に対し、知日派などに頼らずに本物のアメリカ通を養成し、ワシントンで機能するネットワークを築くべきだと説く。

一般的に、アメリカ通はたくさんいるように思われるが、実はそうした人間のほとんどは知日派のアメリカ人としか付き合っていないのが現実である。日本に関心などないアメリカ人と円滑に付き合える人間はごく少数であり、ワシントンで強い政治力を行使できる役人や民間人は稀である。これは25年の滞米生活の結論でもある。

ワシントンに来る外交官、学者、ジャーナリスト、そのほとんどがいまだに学ぶ姿勢でやってくる。学ぶことは悪くないが、勝負にでられないのである。そこまで行く前に、ほとんどの人は帰国の途につく。

英語力の不足がまず一つ。アメリカ文化を自分のものにできないのが二つ目。三つ目はアメリカを動かす度胸がないことである。

改正イラク特措法の成立で航空自衛隊のイラク派遣が8月以降も継続される。ほとんどシンボル的な意味合いしかない空自派遣が単に「アメリカのため」であることは明らかである。アメリカとうまくつき合うためには、笑顔で派遣を止める術を身につけなくてはいけない。もちろん派遣を中止してもアメリカとは仲良くやっていくのである。

本物のアメリカ通がほしい、、、。(敬称略)