銀座6丁目に佇むお気に入りのバー「橋」。
凛とした中に柔和な空気が宿り、いつまででも座っていられる。太田さん(左)と藤牧さんの小気味いい動きはまるで絶妙なパスワークのようで心が和む。
心の奥に沈殿した日々の鬱積はグラスの中のアルコールと共に霧散する。
ここはかけ替えのない大人のバーである。
長い間アメリカに住み、2007年に日本に戻ってから11年がたつ。たまに「英語は忘れませんか」と訊かれることがある。
「痞(つか)えます。話をするスピードも落ちました」
本音ではあまり認めたくないが、間違いなく英語力は落ちている。帰国してから英語力をなんとか保とうと思ってきたが、緩やかな下り坂をいまも降り続けている。
下り坂を歩みだしたのは帰国してからすぐのことである。09年のブログですでにアメリカ人と話をした時の戸惑いを「140キロの速球に振り遅れている感じがある」と書いた(英語の忘れ方)。あれから9年がたっているので、いまでは130キロの球も跳ね返すことが難しいという感じか。
それでも仕事柄、英語を使わざるをえない。英語でインタビューをすることもあるし、同業の外国人記者とよく話もする。一緒に食事をし、カフェにいってさまざまな話をする。だがいまはアメリカに住んでいた時の英語力を100とすると70くらいか。
ずっと坂を下りている感覚がある。しかし話す力に限ったことである。ありがたいことに英語を聴く力は落ちていない。
滞米中といまを比べても、テレビやラジオ、アメリカ人の言うことは以前と同じように理解できる。どんなに早口で話されてもだいじょうぶである。不思議なものだ。
しかし英語で咄嗟に議論の切り返しをしなくてはいけない場面では、ワンクッション、いやツークッションいれるようになってしまった。
もどかしいことこの上ない。復活させるにはアメリカに戻るしかないだろうが、いまはその計画がないので、聴くことができるだけでもいいと思うようにしている。
5日の当ブログで、国務長官ポンペオと北朝鮮側との会談内容の「読み」を記した。トランプ政権側の北朝鮮への見方があまりにも楽観的なので、すでに密約が交わされているかもしれないとの読みである。
すると会談を終えた7日夜になって、北朝鮮政府が英語の声明を発表し、ポンペオの会談での態度が「まるでヤクザのようだった」と批判した。仲がいいどころの話ではなかったのだ。
ヤクザのようだったは英語で「gangstar-like」という単語である。ポンペオはほとんど脅しに近い交渉をしたというのだ。
ところが今朝(8日)、日本の新聞を読むとヤクザという言葉はでてこない。朝日、読売、毎日、産経を読むかぎり、北朝鮮外務省は「米側の態度と立場は実に遺憾だった」という表現でとどめている。「ヤクザのようだった」はない。
これは新聞記者たちのメモ合わせなのだろうと思う。北朝鮮とアメリカを刺激しないための配慮なのかもしれないが、北朝鮮政府がヤクザという言葉を使っている以上、「それを書かないでどうするんだ!」というのが私の思いである。
ワシントン・ポストやブルームバーグといった外国メディアはしっかりと「gangstar-like」という単語を使い、実は米朝両国が決していい関係に落ち着いているわけではないことを指摘している。
北朝鮮はアメリカ側からの非核化の要求がヤクザまがいの強硬なものと受け取り、逆にポンペオは今回の会談が「生産的で、いくつもの議題で前進があった」とまったく逆の思い抱くにいたっている。
そうなるとアメリカ側の変わらぬ楽観はいったいどこからくるのかとの疑問がさらに沸くし、米朝関係が簡単に友好関係にはならない現実もわかるのである。(敬称略)
6月12日にシンガポールで行われた米朝首脳会談。表面的には、両首脳がいい関係を築き始めるきっかけになったかにみえる。
トランプは3日のツイッターでも「北朝鮮とはいい話し合いが進行中だ。過去8カ月、北朝鮮はロケット発射も核実験も行っていない。アジア中が胸を躍らせている」と楽観的なコメントを載せた。
国務長官マイク・ポンペオも今日から北朝鮮を再訪し、完全な非核化にむけての協議を行う予定だ。ここまでは順調に進んでいるかに見える。だが、本当にいい関係ができているのだろうか。
トランプもポンペオもCIAが作成した「北朝鮮は核兵器を放棄することはない」という内容の報告書を読んでいないわけがない。シンクタンクだけでなく、安全保障問題を専門にする多くの学者も「完全な非核化」はありえないと述べており、2人がこうした「現実的な見方」を知らないはずがない。
にもかかわらず、北朝鮮に対して楽観的な見方と態度を崩さない。これは何を意味するのか。
トランプらしい真の楽観を抱えて明るい将来を実現するために動いているのか、それとも「完全な非核化はありえない」という現実を踏まえたうえで、北朝鮮との会談を進めているのかのどちらかだろうと思う。
前者はほとんどありえないので、後者の「完全な非核化はありえない」ことを前提で話を進めているかにみえる。
あとは密約として、金正恩に核兵器や核物質を使用させず、売却させず、製造させずという約束をとりつけている可能性がある。
トランプと金正恩は意外にも、密約を交わすほどの仲になっているかもしれない。というのも、金正恩を暴走させないためには、それがもっとも現実的な策と思えるからだ。金体制の保証もする。
突っ張りあっていてはまとまるものもまとまらない。それが過去の米朝関係だったからだ。したたかな首脳であれば、それくらいのことはするだろう。
いずれにしても今後1年でトランプ・金正恩の本当の関係が露見するはずである。(敬称略)