プカプカ・フー

Sheesha4.20.17

自宅から歩いて2分のところに小さなカフェがある。

以前から気になっていたお店だが、入ったことはなかった。中東出身と思われる背の高い男性が1人で切りもりしている。

いつかは行ってみようと思っていたが、なかなか入る気が起きなかった。

というのも、いつ通ってもお客さんがほとんど入っていないのだ。しかも、店の奥まで見通せるほど明るく、「いまお茶しています」と近所の人たちに宣言しているようで、一歩が踏みだせない。

ただ、心の奥の方で「入ってみたら」とささやく声もあった。シーシャ(水タバコ)を出す店だったからだ。

エジプトに行ったときに初めてシーシャを吸った。随分前のことだ。ニコチンもタールも含まれないタバコで、1時間くらいプカプカ・フーができた。

私は高校から大学にかけての数年だけ、タバコを吸った経験がある。大学2年時に止めてからはまったく吸っていない。

水タバコは中毒性がないのでいいと思い、ルクソールのホテルのそばのカフェで地元の男性たちと並んで、煙を吸った。ハイになるわけではないが、鼻腔に心地よさが残った。

エジプトにいる間、ほぼ毎日シーシャを口にあてたが、日本に戻ってからは吸う機会がなかった。

先日、またカフェの前を通り過ぎた。相変わらず人気がない。でも思い切って「シーシャは吸えますか」と中東系の男性に訊くと、流暢な日本語で丁寧に受けこたえした。

20種類以上のフレーバーがあり、私はオススメに従ってキウイを選んだ。

エジプトで吸ったシーシャの味わいが少しだけ蘇ってきた。だが途中から、「煙は消化できません」というメッセージが胃からわきあがってきた。肺ではなく腹部からきた。

それからしばらくして席を立った。なんとも言えない違和感が残り、エジプトで経験した心地よさの記憶が消えそうになった。

たぶんもうあのカフェで、プカプカ・フーをやることはないと思う。