東京からの逃亡

東京にいる多くの外国人が逃避している。西日本に逃げた者もいるし、本国に一時帰国した者もいる。 

福島県の避難指示がでている地域であれば話はわかるが、ほぼ200キロ離れた東京にいても不安なのだという。「大使館からの避難勧告が出た」と言って、東京を脱出したヨーロッパ出身の記者が何人もいる。

被爆国に住む日本人の方がはるかに放射能に冷静でいられるというのは皮肉だ。なぜ彼らは放射線に対して過剰に反応するのだろうか。

いくつも理由がある。一つは今回の福島原発事故を見る限り、日本のメディア報道より欧米メディアの方が正確さを欠いていおり、読者や視聴者を煽った内容が多いことだ。通常、同じ事象を扱う記事でも日米の報道内容には差違があるが、今回、アメリカ側のあまりの情緒的な報道内容にはあきれてしまう。

なにしろ、アメリカ西海岸に放射線が届いているという記事から福島原発事故で人が死ぬ?という大見出しまで、日本は悪魔の住む箱を爆発させてしまったような慌てようである。

二つ目は多くの外国人が日本政府の発表する数字を信用していない傾向が強いことだ。放射線量は福島原発を起点に、さまざまな場所で定期的に計測されている。政府の公式発表もあるが、研究所や個人のガイガーカウンターの数値もあり、東京付近の数値は一様に低く、慌てふためくことはない。彼らは日本政府の発表する数字は信用できないと言う。

東日本大震災・放射性物質監視サイト 

実は多くの外国人は異国で生活すると、外国人同士による情報交換が多くなり、主にその情報に頼らざるを得なくなる。もちろん日本のテレビや新聞の報道内容を正確に理解する人もいるが、それができるのは少数派と言っていい。彼らが頼るのは英語メディアの情報であり、それは今回「いかがなものか」といった内容が多いだけに、より一層恐怖心を煽られることになっている。 

三つ目は、外国で暮らす場合、その土地にどれだけのこだわりがあるかで行動様式が違ってくるということだ。極端な例では、1ヶ月の予定で東京に滞在しているイギリス人が事故後も東京に留まる理由は薄い。予定を早めて本国に戻るだろう。十分に理解できる。

数年の滞在者しかりである。だが、日本を安住の地と定めたような外国人が易々と帰国するだろうか。もちろん人にもよるが、東京で家を買い、長年住み続けている外国人は冷静に状況の推移を見守っている。少なくとも私の周囲の外国人はそうである。

「けれども最悪の事態が起こらないとも限らないでしょう?」

東京から逃げ出した知人は言った。

関東一円に高いレベルの放射線が降り注ぐような最悪のシナリオに至らないとは断言できない。だが、限りなく低い。あとはこう言い放つだけである。

「逃げたければどうぞ」