フランス革命記念日

7月14日。日本ではパリ祭といわれる革命記念日の夜、南麻布にあるフランス大使公邸のパーティに招かれた。

混然とした東京の町に静謐な庭が広がっている。芝生の向こうにはプールがあり、うっそうとした木々に囲まれた空間は時が静止しているかのようだ。日の暮れ方、ホタルが飛んでも誰も驚かないほどののびやかさがある。

立食形式なので、立ち話しかできない。どのパーティにいっても、立ったままでは本当に身のある会話にはならない。大使も交えて参議院選挙の結果と今後の日本の政局について話したが、その場を離れれば薄い氷がすぐに溶けてしまうのと同じでほとんど何も残らない。

何枚もの名刺だけが重なって手元にある。フランス語の名前と顔がすでに一致しない。今日、町ですれ違っても先方が気づいてくれない限りこちらから声をかける自信はない。

それでも、新しく出会った人から一つでも心に残る言葉やセリフが去来すれば、私にとってはいいパーティだったといえるだろうが、その日は胸に刺さるものはなかった。ましてや名刺の肩書ではない。

帰る直前、目の前を料理評論家の服部幸應がテレビで観るとおりの黒い「マオカラースーツ」で通り過ぎたが、妙に寂しそうに見えたのは気のせいだろうか。(敬称略)