必須の女性取締役

今年4月、あるニュースがアメリカ財界を駆け抜けた。

自動車業界の雄、ゼネラル・モーターズ(GM)が13番目の取締役としてシンシア・テレス氏という女性を抜擢したのだ。カリフォルニア大学ロサンゼルス校の精神神経研究所長である同氏は自動車業界どころか、財界とはほとんど縁のない精神科医である。

けれども、テレス氏はGMの取締役以外にも銀行や保険会社の取締役を務め、オバマ大統領からは「ホワイトハウス研究者委員会」のメンバーにも選ばれていた。医学界以外にも通じる高い見識と経験が評価された結果だった。

彼女の起用が財界を騒がせたもう一つの理由は、新生GMが女性取締役を4人も採用したことである。

GMは昨年6月、連邦破産法第11条(チャプターイレブン)を申請し、事実上破たんしたが、40日後には新生GMを誕生させていた。それまでGMはCEOをすべて社内の生え抜きで通してきたが、初めて外部から招いたCEOが通信大手のAT&TのCEOだったエドワード・ウィッテーカー氏である。

同氏は取締役13人中11人までを外部からの人材に頼った。テレス氏のような学者から異業種トップまでさまざまだ。その理由を同氏は言う。

「世界最高品質の車をお客さまにお届けすることが私どもの使命であり、そのためにはいろいろな経験や多様性を追求することが重要になってくると思います」

その結果として、4人の女性取締役の起用につながった。全体の比率では33%である。けれども、その数字が現在のアメリカ企業の女性取締役の割合を表しているわけではない。

アメリカで女性の社会進出が活発化した起因は60年代のウーマンリブ運動にまで遡る。しかし、大手企業の取締役にまで社会の階段を駆け上がる女性は今でも多くない。ニューヨークに本部を置く女性のための地位向上のための非営利団体「カタリスト」の最新調査によると、フォーチュン1000社の中で女性取締役を置く企業は11%に過ぎない。

 「ヨーロッパ女性専門職ネットーク」によると、ヨーロッパ連合(EU)のトップ300社で女性取締役に置いている企業は9.7%で、アメリカと大きな差はない。一方、日本企業はといえば1.4%という数字で、先進国の中では最低である。

この分野で世界を一歩リードしているのはノルウェーで、2003年から国営企業は女性取締役のクォータ制を導入し、「取締役の40%は女性にすること」という法律を順守している。08年からは民間企業も40%が適用され、現在は44%にまでなっている。男女平等の考え方が広く浸透している同国らしい法律である。

日本でも男女雇用機会均等法が整備されているが、一部上場企業の取締役の顔ぶれを眺めると、いまだに男性社会である。某大手自動車メーカーの取締役は20数名、全員男性である。

アメリカのコンサルティング会社「スペンサー・スチュアート」のジュリー・ダウム氏は現状をこう述べる。

「10年ほど前、アメリカ企業は女性の取締役を起用し始めました。けれども、それは外部からのプレッシャーに応じただけでした。今、それが変わってきています。1人だけでなく、2人、3人と女性取締役を就任されています」

ウーマンリブが起こっても、大手企業の取締役に女性が抜擢されることはほとんどなかった。アメリカの企業文化は白人男性が白人男性のために築き上げてきたものだからだ。

しかも多くの取締役は個人的なコネクションによって推薦されてきた。取締役の適任者という範疇に女性が入りにくいシステムができ上がっていたのだ。

だがノルウェーが先陣を切ったように、法律で女性取締役のクォータ制を導入する流れがヨーロッパ諸国からアメリカ、そして日本に上陸する可能性は出てきている。すでにフランスは今年になってから、ノルウェーのように取締役の40%を女性にする動きに出ている。

もちろん、反対意見もある。コーポレートガバナンスが落ちるという意見もあるし、クォータという数字が先にくることで、不適格な女性が取締役に就く可能性も指摘されている。

しかし世界人口のおよそ半分が女性である以上、女性の意見が企業内で十分に生かされる必要があるとの考え方がヨーロッパ諸国やアメリカで定着し始めている。

女性が取締役に就くことで、その企業の「窓」が開かれていることを示すと同時に、企業イメージのアップと商品開発への新たな視点が期待できる。

将来、日本の国会でも女性取締役のウォータ制を採決する日がくる可能性はある。

(JMAマネジメント・レビュー7月号から転載)