オバマ、バウンスで差が拡大

9月4日のブログで(ロムニー、ほとんどバウンスせず )と書いた。

党大会という全米から注目されたイベント後も、共和党正式候補のミット・ロムニーの支持率はほとんどのびなかった。だが、民主党大会が終わった後、オバマの支持率はグイグイ上昇し、ギャロップ調査の最新調査では50%対44%でロムニーにリードを広げた。

オバマはバウンスしたのである。

保守系テレビのフォックスニュースの世論調査でさえ48%対43%という数字で、オバマのリードが広がった。不思議なのは公正な世論調査であるはずなのに、保守系メディアや団体が行う調査では共和党候補がいい数字をたたき出すことが多い。

投票日まで残り2ヵ月を切って、この差である。ロムニーは選挙戦略を変えて、新たなオバマ攻撃の材料を手にいれないと時間切れになる可能性が高い。

最も重要な2州(オハイオ州とフロリダ州)の最新世論調査を眺めても、両州ともオバマ有利で推移している。

今年、アメリカ国内の評論家は失業率が高いと現政権に不満をぶつけている。共和党側は8%を超える失業率をしきりに口にして、オバマは雇用創出に失敗したとの主張だ。

机上論では100人中完全失業者が8人ということだ。残りの92人はいちおう仕事があるという計算である。私は大統領選で大きな影響力をもつのはインフレ率だと考えている。

昨年は3%を超えていたインフレ率がいまは2%を切っている。物価があがらないという社会状況は、経済が円滑に回転しないことにもつながるが、市民レベルでは「ありがたい」と感じる人が多い。

いまインフレ率が5%を超えていたら、たぶんオバマ再選はない。だが今のままでは11月、オバマ勝利である。(敬称略)

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by the White House

やはり彼は市長がせいぜい

またアメリカ国内政治の話で恐縮だが、ホワイトハウスでオバマの初代首席補佐官を務めたラーム・エマニュエルという男がいる。いまはイリノイ州のシカゴ市長を務めている(ある男の勝利 )。

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彼がノースカロライナ州で行われた民主党大会2日目に登場して約9分間の演説をおこなった。内容はもちろん元ボスであるオバマを讃えるもので、大統領はホワイトハウスに入った初日から真摯に多くの問題に取り組んでいたと訴えた。

当時、エマニュエルは「大統領、どの問題から最初に取り組むつもりですか」と訊いた。オバマは「問題を選んでいてはいけない。すべての問題に取り組むんだ。そのために国民は私を大統領に選んだんだから」とはっきり答えたという。

さらに国民からの声に耳を傾けるため、毎晩レジデンスに引き上げる前に必ずホワイトハウスに届いた市民からの手紙を何通か持っていったという。

彼とオバマの2人にしかわからない話はそれなりに興味深かったが、彼の演説のできが芳しくなかった。10点満点で4点といったところか。

今回は元大統領のビル・クリントンとオバマ本人の演説が秀逸だっただけに、他の人たちの話が霞んでしまった。同時に、内容よりもいかに聴衆の心を捉える話し方ができるかできないかで政治家としての技量が計られることも再確認した。

それにしても、もう少しなんとかならないのか。(敬称略)

脳を飛ばす!

長い間、活字メディアで仕事をしている。ときどきテレビやラジオにも呼んで頂くので、できるだけ出るようにしている。

ほとんどの方はお気づきだろうが、テレビやラジオといった放送メディアは、瞬間芸とでも呼べる直感的な機転が必要になる。特にナマ放送では、それなくして伝える側にいる意味がないようにさえ思える。ボーッと座っているだけでは、出演している価値がない。

今週、WOWOWの夜の番組で話をする機会があった。ジョン・カビラが司会をする1時間のナマ番組で、私の持ち時間は約15分間。ホワイトハウスについて話をしたが、いくら自身がよく知ることであってもテレビ向けに話をする時は「分かりやすく」が大切だ。

もちろん台本があり、進行の時間が決められ、それに沿って話をする。だが本番のスタジオには一般参加者が座り、そのうしろにディレクターを始めとした番組関係者がジッーとこちらを見ている。かなりテレビには慣れてきていても、視線が散ってしまう。

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                       By WOWOW

カメラの横にある丸時計の秒針がチクチク動いているのが気になる。流れに乗って話をしていると、テレビカメラの下で跪きながらフロアディレクターが「次の写真はカット」と、リハーサルとは違う指示を出してくる。

その横では違うフロアディレクターが「このコーナーあと2分」といったカンペをかざす。その途中で、右手にあるモニターを見ながら私は「キュー」をだして、新しい写真を写し出してもらわなくてはいけない。

そうしていると、カビラがもちろん台本にはない突っ込みを入れてくる。それに答えながら次の話の内容を考えていると、フロアディレクターが「次に進んで」といった指示を飛ばす。

活字メディアには普通、考える時間がずいぶんとある。文章を紡ぎながら次の表現をどうするか、ハタと考えこんで時間がたつことも少なくない。

テレビやラジオはその対極に位置する。敢えて表現するならば 「脳を飛ばす」ことを知り、その喜びを味わえないといけない。

だが、まだ喜びに変わらない、、、、。(敬称略)

また鳥肌

パワフルな演説だった―。

民主党の党大会最終日。オバマが登壇して久しぶりに力強いスピーチを行った。日本にいてもケーブルテレビやインターネットで生演説を観られる。

もちろん会場にいた方が臨場感もあって感情も高揚するが、インターネット経由で観ているだけでも腕に鳥肌が立ってしまった。

2004年夏、ボストンで行われた党大会に登場したオバマは当初、シカゴの若手議員というだけで大きな期待をかけられていなかった。しかし話を始めると、スピーチの内容だけでなく話の流れと抑揚、力の入れどころを心得ていてスーッと鳥肌が立ったのを覚えている。

政治家のスピーチで鳥肌が立ったのは1992年のゴア副大統領候補(当時)の演説以来だった。そして先ほどのオバマの演説で3回目。最初の2回は実際に現場にいたが、今回はパソコンの画面に映し出されたオバマの姿を観ながらである。その場にいたら小さなブツブツが全身にできていたかもしれない。

4年前オバマが当選したのは、この巧みな演説の技術に依るところが大きい。国民に自身のビジョンを示すことは政治家の務めだが、それをいかに行動に移し、目に見えるかたちで成果に収めるかがもっとも重要だ。

今日あらためて演説のスゴサをみせつけられたが、政治家の真価が問われるのはその成果である。外交と社会政策では合格点だが、経済では平均点でしかない。

個人的にはあと4年見ていたい大統領である。(敬称略)

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by the White House

ロムニー、ほとんどバウンスせず

このタイトルですぐに意味が分かった方はアメリカ大統領選にかなり通じている。

クイズのような書き出しで申し訳ないが、先週フロリダ州タンパで行われた共和党大会でミット・ロムニーが党の正式な候補になり、アメリカの主要メデイアだけでなく世界中のメディアが報道した。

党大会は4年に1度行われる政治ショーで、祭りとしての要素が大きい。「綱領」という、政権を担った時の党の指針を発表すると同時に、正副大統領候補も指名されるので、祭りの要素を感じらるようには思えない。

だが会場にはロックミュージシャンが何人も招待されて音楽がガンガン鳴り響く。さらに日本のメディアにはほとんど報道されないが、俳優などの著名人が続々と登壇して会場をわかせる。日本で報道されたのはクリント・イーストウッドの演説くらいだろうか。

しかも数千人の共和党員が全米から集まるので、前夜からタンパ市内ではいたるところでパーティが開かれ、愉しいイベントに参加するかのようだ。今回は取材していないのに何故わかるかというと、1992年から何度も党大会に足を運び、過去20年両党ともほとんど同じスタイルなのを知っているからだ。

そろそろタイトルの「ほとんどバウンスせず」の意味をご説明したい。過去の党大会をみると、通常は全米中から注目を集めたので、候補たちの支持率は「はずみ(バウンス)」がついて上昇してきた。だが、ロムニーの支持率に大きな変化は見られない。

9月2日発表のギャラップ調査では、いまだにオバマがロムニーを1%リードしていた。92年、クリントンのバウンス率は実に16%。そのまま現職ブッシュを打ち負かした。今日から始まる民主党の党大会で、今度はオバマに注目が集まる。

両者の差はここまでオバマが僅差でリードといった状勢で、ロムニーに目立ったバウンスが見られないので、オバマリードはしばらく変わらないだろう。(敬称略)