崖っぷちトランプ

トランプは崖っぷちに立たされていた。

第1回テレビ討論会でヒラリー・クリントンに打ちのめされたあと、2005年に録音された卑猥な発言が暴露されて絶体絶命の窮地にいた。あとヒト突きで谷底へ落ちてもおかしくない。

だが日本時間10日、2回目の討論会でドナルド・トランプは攻勢をかけた。冒頭で卑猥発言を謝罪し、「私ほど女性に敬意を払っている人間はいない」と平然と述べた。

その後、逆手をとって「ヒラリーさん、11年前の発言を持ちだしてくるなんて品格がない。恥を知るべきだ。ビル・クリントンの方が女性に口汚い言葉を使う。私よりもっとひどい」と攻撃。第1回目と違い、トランプは終始、攻めに攻めた。まるで女性蔑視発言などなかったかのようだった。

討論会の表層だけを眺めると、トランプが優位に立っていたかにも見えた。だが、発言内容を精査すると、デタラメな言説が目立った。

「シリアからいま何十万人もの難民が米国内に流入している」は明らかな間違い。シリアからの難民は2016年度、約1万人に過ぎない。

「昨年の米国の貿易赤字は8000億ドル(約80兆円)だった」も間違い。実際は約5300億ドル(約53兆円)。

続きは・・・(崖っぷちトランプ 第2回テレビ討論での主張はウソばかり | 日刊ゲンダイ)。

大統領選:第1回討論会

hillarytrump9-26-16

by Youtube

いよいよヒラリーとトランプの直接対決の日がきた。

ヒラリーは8月からトランプとの討論を想定した模擬ディベートを繰り返してきている。化粧、表情、身振り、言葉遣い、そしてトランプを追い詰める論法まで練っているはずだ。心理学者まで雇っている。

一方のトランプは直感に頼るという。リハーサルもヒラリーほど多くは行っていない。トランプらしい。

しかし過去3回の大統領選の討論会のビフォー・アフターを眺めると、支持率の推移や投票結果にあまり影響が出なくなってきている。というのも、9割以上の有権者はすでにどちらに一票を投じるかを決めているからだ。

私がアメリカ人であったとしても、討論会は2人のパフォーマンスを観る場に過ぎない。仮にトランプがヒラリーよりも討論の内容がよかったとしても、それでトランプに一票を入れるという流れにはならない。

だから率直に述べると、討論会がどういう展開になろうが、結果に大差がつくことはない。インターネットによる情報が氾濫している時代だけになおさらだ。明言すれば、結果はすでについている。

ただ明日はテレビ番組に出演して、ナマ討論を観ながら解説させていただけるので楽しみにしている。

新しいトランプの伝記

trumpbook9.2.16

アメリカではいま、おびただしい数のドナルド・トランプ関連本が出版されている。ネット通販大手のアマゾンで「ドナルド・トランプ」と検索をかけると、なんと1855冊があらわれる。8月だけでも数十冊が出版された。

その中でも8月23日に出版された『トランプの本性:野望、自我、カネ、権力への欲求(仮訳)』は、ワシントン・ポスト紙の記者2名が20時間以上もトランプ本人にインタビューして書き上げた伝記で、すでに新刊本のベストセラーに入っている(新刊伝記本で暴露されたトランプの「隠された本性」)。

(上の原稿は『日刊ゲンダイ』の連載記事の冒頭部分です。今年2月から始まった大統領選の連載は随時掲載という形で、今回で50本目になりました。11月までは続いて書いていきます)

トランプは自滅か

アメリカ大統領選をずっと追っているが、8月になって少し拍子抜けしている。

というのも、7月の党大会以後、トランプの劣勢がはっきりしているからだ。私はかなり早い段階からヒラリー有利とさまざまなメディアで述べてきた。ここにきて、トランプの勝てるチャンスは以前よりもさらに少なくなっているように見える。(どういう角度から予測してもヒラリー勝利)。

今朝の米ニュースでは、トランプはヒラリーのことを「bigot(頑固者)」と言って攻撃したが、何の足しにもならない。両者ともに1年以上も選挙戦を行っており、抽象的な言葉による攻撃ではもう誰も耳をかさない。

ヒラリーのメール問題はいまだに尾を引いているが、決定的なダメージにはいたっていないし、今後もならないだろう。ヒラリーへの攻撃はすでに出尽くした感がある。

だがトランプの汚点は少しずつ、新しいことが表面にでてきている。本選挙を2カ月半後に控えて選挙対策本部の人事異動をしたり、不法移民に対する言動が二転三転したり、負債総額が書類上の2倍にあたる約650億円だったりと、マイナス要因が多すぎる。

11月8日の本選挙は総得票数ではなく州ごとの戦いになる。州ごとに集計するということだ。現段階からどう計算してもヒラリーが負けないという答えが出てしまっている。

ここまで断言する人はあまりいないが、全米の州ごとの取り分け図は2008年のオバマ対マケインの戦いに極めて近い。州に割り当てられた選挙人というものを積み重ねていくのだが、総数が538。過半数の270を奪った候補が勝ちとなる。

08年選挙ではオバマが365、マケインは173でオバマの圧勝だった。今年もほぼ同じ州を奪ってヒラリーが勝つ可能性が高い。

9月からトランプとヒラリーによる討論会が3回予定されており、よく「討論会次第だ」という方がいる。だが過去30年も見てきて言えるのは、討論会後の支持率に大きな変化は生まれないということだ。

いまの段階までくると、有権者の9割以上はすでにどちらに票を入れるか決めている。討論会は単に確認の意味で観るだけに過ぎない。たぶん今日投票を行っても、2カ月半後に投票を行っても数字に大きな変化はない。

それがアメリカ大統領選の特徴でもある。

hillary8.26.16

Photo by Pinterest (若かりし頃のヒラリー)

 

悪太郎に戻ったトランプ

共和党全国大会で党をまとめたはずだったドナルド・トランプだが、モラルの低い言動で再び党内がざわついている。「トランプで共和党は大丈夫なのか」といった空気なのだ。

「決して大丈夫ではないですよ」と言ってやりたい。

イラク戦争で息子をなくしたイスラム教徒のカーンさんという人が、民主党全国大会でトランプに対し「あなたは何も犠牲にしたことがない」と批判した。するとトランプは無慈悲な対応をし、その言動に非難が集中した。

さらに自身の政治集会で乳児が泣いていたところ、「私は赤ちゃん、好きですから」と一時は問題視しなかったが、すぐに「会場の外にだして」と態度を変えた。

また、トランプ支持を打ち出している下院議長のポール・ライアンや上院議員ジョン・マケインを冷たくあしらった。両議員は今年11月が再選で、トランプは返礼として両者への支持表明をすべきところだが、支持しない意向である。

私は連載原稿の中でもテレビやラジオでも「ヒラリー有利」と言い続けており、トランプがトランプでいる限り、ヒラリーを勝たせる結果へと進んでいるように思える。

共和党内の一部からは本選挙を前に、「トランプを他の候補に差し換えられないか」といった声さえ出ている。

11月8日は州の取り合い形式の選挙で、スイングステート(激戦州)のバージニアやオハイオ、フロリダは現在ヒラリーが獲得しそうな勢いだ。ノースカロライナもヒラリーが獲る可能性さえある。そうなるとヒラリーの圧勝が見えてくる。