なぜ盗らないのか

2007年、アメリカから帰国してすぐの頃、仕事の打ち合わせでJR市ヶ谷駅に行くことがあった。駅に隣接されたスターバックスに入ると、レジには行列ができている。

「まずお席をおとりください」

店員が大きな声で来店した客に叫んでいる。

これには驚いた。席を確保するというのは自分のバッグを席に置けということで、アメリカやヨーロッパ、また世界の他地域ではほとんどありえない。

「どうぞ盗んでください」と同義語だからだ。

不安だったが指示されたとおり、自分のバッグを席に置いてコーヒーを注文しにいった。戻っても、バッグはそのままだったのでホッとしたのを覚えている。

日本にも窃盗犯はいるが、こうした状況でバッグを盗まれることは稀だ。

昨日、同じようなことがあった。

実は3日前、自宅近くのコンビニに行った時、手にしていた傘を入り口の傘立てに挿した。買い物をすませ、傘をそのままにして帰宅した。雨は止んでいたからだ。

情けないのは、それに気づいたのが昨日だったことだ。傘を置き忘れてから2日たっている。客の出入りの多いコンビニで、昨日は時々雨がふっていたので誰かに抜き取られた可能性が高いと思っていた。

骨が16本ある、しっかりした傘で気にいっていた。

昨夜、いちおうコンビニに向かう。30メートル手前から私の傘が傘立てに突き刺さっているのが見えた。

「誰も盗らないんだ」

傘を握りしめてコンビニのレジの女性に告げた。「やったあ!ありました。3日前に忘れたんです」

レジの女性はほとんど驚いた様子もみせず、「よかったですね」とヒトコト。

この話を諸外国に伝えたい―。

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