環境が人をつくる

数年前のことである。ある所でコピー機を利用した。1枚10円。

100円硬貨を入れようとした時である。90円という残高数字が出ている。明らかに前の人がおつりを取り忘れていた。

アメリカにいた時は、間違いなく「ラッキー」という場面である。こうした状況で残金をわざわざ店に返すアメリカ人はいない。たぶん、多くの国でも同じだろう。「天が与えてくれたもの」といった都合のいい解釈をする。

その時、私は残金をそのままにして自分のコピーを取ろうとした。誰もみていない。

「ンー、どうしようか」。心の中に小さな葛藤があった。だが、おつりの返却レバーを押して90円を店側に渡した。店員さんは「あっ、どうも」という当たり前の対応だった。

この反応にたいへん驚いた。アメリカでおつりの返却をしたら、いたく感心されるか、「貰ってもいいのに!正直ですね」という顔をされる。だがその青年は当然の行為という振る舞いで、こちらを見ていた。

「日本に帰ってきたんだな」

25年間の滞米直後だったこともあり、「カウンター(逆)・カルチャーショック」だった。あれから数年が経過した。

先日、まったく同じ状況にでくわした。残金も同じ90円。何のためらいもなく返却レバーを押して、おつりを返した。

やっと「日本人に戻れた」という思いがあると同時に、他国ではこれが「人のよさ」につながり、つけこまれることになる日本人気質であったりもする。

海を越えた時はスイッチを切り替えればいいのだが、機械ではないのでそう簡単ではない。