油絵画家としての村上春樹

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村上春樹の最新刊が100万部を突破したという。村上ブームは日本だけでなく世界中に広がっている。

最近もブラジルでポルトガル語の『1Q84』が出版され、どういうわけか私がブラジル人の新聞記者に英語でインタビューされたりもした。彼の大ファンではないし、文芸評論家でもないと断ったうえで質問に答えた。

何百、何千という小説家が日本にいながら、村上の本だけがなぜ世界中で桁違いに売れるのか。理由の1つは、絵画でたとえるならば、彼は日本人としては珍しく油絵の画家として成功しているからだろうと思う。

作家大沢在昌が以前、日本人の作家は墨絵の描き手だと述べていた。無駄をそぎ落として、墨の線が醸す風情に作品を託す。油絵のようにブラシで厚く塗らない。

油絵の画家は日本にも大勢いるし、過去に名を馳せた人もいた。だが村上は現代のオイル・ペインティングの技法を圧倒的な形で高みへと到達させた。

村上のつむぐ文章は厚みのある油絵である。僭越ではあるが、私はそう評したい。(敬称略)