ノルウェー人テロリストの奇怪

ジャーナリストという職業柄、これまで多くの国でさまざまな人とかかわり合いをもってきた。言語や宗教、生活習慣がちがっても、「この人の生き方はまったく理解できない」とため息をついたことはほとんどない。

だが、ノルウェーのテロリスト、アンネシュ・ブライビークについては考え方に溝どころか異星人と思えるほどの隔たりを感じる。

   

                          

3年かけて書いたとされる1518頁のマニフェストをダウンロードして速読してみた。大きく5章に分かれており、ヨーロッパの歴史から今回のテロ事件で使用した爆発物の製造方法までが詳細に記されている(上記の写真は1512頁に掲載されている)。

多民族主義とイスラム教に不信感を抱く人間がいることは十分に理解できるが、そこから無差別テロに走らざるを得ないプロセスが理解できない。何が彼を殺人に走らせたのか。そこにどういう意味を持たせられると思ったのか。

マニフェストの560頁目には、「21世紀は言論の自由が保証された、バランスのとれた機能的な社会システムが採用されるべきであり、法の下で市民は平等が約束されてしかるべきだ」とある。しごく当然と思える内容の記述もあり、全頁にわたって極論が展開されているわけではない。

だが、イスラム教徒に対する差別意識はいたるところにちりばめられている。彼らに怖気を抱いたと考えられるが、そこからテロ襲撃の実践までには大きな飛躍がある。空間がありすぎる。私にはそこがわからない。

「私は専制的な抑圧者に対抗するため私欲を捨てる」

と書く内容と今回の政府ビル爆破と銃乱射は、常人であればけっしてつながらない項目である。

さらにマニフェストの最後の100頁で、硝酸アンモニウム肥料を使った爆弾の製造方法を詳細に記している。1995年のオクラホマ市の連邦ビル爆破事件でティモシー・マクベイが使った爆弾と同じものであるが、あまりに醒めた筆致にはこちらが怖気を感じる。

02年にインドネシアのバリ島で起きた爆破事件も同じ肥料が爆弾材料に使われているだけに、今後、真似されないことを祈るのみである。

ひさしぶりに理解に苦しむ文章と行動に接し、奇怪な感情につつまれている。