ミサイルは撃ち落とせない

北米の都市にたちよったあと、南下してアルゼンチン、そしてパラグアイまで来ている。 

アルゼンチンの首都ブエノスアイレスは21年前に来たことがあるので記憶がよみがえる。だが、記憶が町を美化しすぎていて、市内を歩いていても以前の印象とダブらない。「こんなだっけ」という言葉が口をつき、現実とのギャップに戸惑う。だが、考えてみれば21年の月日で町が変わるのは当たり前である。

南米でくらす人たちを見るかぎり、北朝鮮のミサイル発射問題は地球の裏側のできごとにすぎない。しかし日本人にとっては大きな問題である。

人工衛星「光明星2号」が「テポドン2号」であることは、ほとんど疑う余地はないだろう。ブリュッセルにある国際危機グループの最新報告によれば、北朝鮮は核兵器の小型化に成功したという。今回騒がれているミサイルに核弾頭は搭載されていないが、北朝鮮が日本の許可も得ずに頭越しにミサイルを発射すること事態、国際政治上、許しがたい。それは子供にもわかる。

日本政府が国連安保理決議(1718) にもとづいて制裁を再確認することは当然だが、それによって北朝鮮が核開発やミサイル発射をやめないことも誰もが知る。戦後60年以上、国連安保理は最重要の国際案件で現実的な力を行使できておらず、ほとんど機能しないといっても過言ではない。そこに国連の限界がある。

外務省も首相官邸も脆弱なので、ミサイル発射をやめさせることは無理である。強硬策も視野に入れた北朝鮮との取引があってもいいが、日本政府内に妙案があっても執行力が弱いのでほとんどなにも期待できない。

さらに悲観的にならざるを得ないのは、ミサイル防衛(MD)は機能しないということである。すでにいくつものメディアで書いているが、本質的にMDには期待できない。アメリカは数多くの実験を行っているが、まだ実戦で使用したことはなく、当たる可能性の方が少ない。ミサイルを撃ち落とすことがいかに困難か、これは物理の問題である(ミサイル防衛2005年7月下段) 。幸いにして今回は北朝鮮側も実験であり、日本国内に落下してくるのはホンモノではない。

もう一つ指摘しなくてはいけないのは、日本のメディアの報道姿勢だ。安全保障問題にあまりにもウブなため、こうした事件をすべて報道しようとの意識が強すぎる。戦時下の経験者が現役記者でほぼ皆無なため、自国の情報をわざわざ内側から調べ上げて「敵国」に提供するような行為を嬉々として行いそうである。

戦争という状況において、情報統制は重要である。それは政府とメディア両者が意識的に行わなくてはいけない。そんな中、政府はミサイル1発であわてふためいて「誤報」というありさまだ。日本は「平和すぎる」という思いがますます強まるのである。