ひとつの世界一

初めて福岡を訪れた。人生のほぼ半分がアメリカだった私にとって、日本はまだある意味で小さな宝石がちりばめられたようなところがある。町並みの目新しさだけではない。サービス産業の質の高さは日本中、どこへいっても目を見張らされる。

ホテルにチェックインする直前、小雨が落ちてきた。「濡れた」といえるほど濡れてはいなかったが、雨粒が頭部やスーツの上に乗っていた。

フロントの女性はほどなくして、スッとタオルを差し出してきた。それが彼女の自発的な心遣いだったのか、システムの中に組み込まれた気配りだったのかはわからないが、こうした思いやりはアメリカにはない。良質なサービスを提供するホテルはアメリカにもたくさんあるが、かゆいところに手が届くような気遣いはほとんどない。

アメリカのサービス業界はこうした日本のよさを学ぶべきである。優しい手を差し伸べられて、いやに思う国民はいない。アメリカ人は慣れていないだけである。

福岡出張は産業用ロボットの製造・販売で世界1のシェアを誇る安川電機の社長へのインタビューが目的だった。ロボットといえばホンダのアシモがすぐに思い浮かぶが、安川電機のロボットに顔はない。

自動車の製造ラインでブイーン、クワーンと腕を振りながら、部品を取り付けたり塗装をするロボットだ。1977年に「モートマン」という製品を世にだし、業界の先導者として世界に名が通っている。

無理をいって工場を見学させてもらった。予想外のことが目にはいった。ロボットを作る工場なので、すべてオートメ化されているものと思っていた。ところが作業員もいた。手作業でボルトを締めている。

「人間の方がいまだに効率のいいところがある」

案内をしてくれた課長はこなれた説明をした。それは現時点でのロボットの限界でもある。 

産業用ロボットで世界1になったので、いまは既存の技術をベースにして民生用ロボットの製造・販売に乗り出している。日常生活でロボットができるところはロボットにやらせるという発想は新しいものではないが、間違いなく21世紀の風景の一つになるだろう。 

地方の元気な企業をみて、珍しく精神的な高揚をたずさえて帰路についた。