波乱のない選挙

アメリカ大統領選挙の最初の予備選が近づいている。来年1月3日がアイオワ州党員集会だ。

現在、民主党ではヒラリー・クリントンがリードを続けている。これは全米レベルの支持率という意味で、USAトゥデイとギャロップによる共同世論調査によると39%でトップ。2位はバラック・オバマで24%。同じ時期のロサンゼルス・タイムズとブルームバーグの調査ではヒラリーが45%、オバマは21%だ。

共和党はジュリーニが25%(USAトゥデイ・ギャロップ)でトップ。2位はマイク・ハカビーの16%。トンプソンは15%、マケインも15%。ロムニーは12%と激戦である。

アイオワ州だけをみると、民主党はヒラリーとオバマ、エドワーズが三つ巴の戦いを演じている。共和党ではロムニーがずっとトップを走ってきたが、ハカビーが抜いて頭一つリードした。ジュリアーニはアイオワを捨てているので支持率では3位に甘んじている。

選挙の予測に熱をあげても大きな意味はないが、「どうなるのか」と聞かれる方が多いので、私は「順当にヒラリーとジュリアーニが勝ち進む」とお答えしている。

来年1月に大統領選についての本(角川SSC新書)を出させていただく。そこでもヒラリーとジュリアーニに焦点を絞ってある。04年の本では「選挙対策本部の動き」に光を当てたが、今回は「カネの流れ」に力点を置いた。カネの流れから選挙を眺めた本である。

来年の予備選で二人が脱落してしまうと、本の存在、ひいてはジャーナリストとしての立場も否定されかねないので多少の冒険ではあった。だが、いくつかの理由から二人が両党の正式候補になるだろうと踏んでいる。それもあと2カ月(2月5日のメガチューズデー)で決まってしまう。

最大の理由はカネである。歴史が教えるとおり、本選挙の1年前にもっともカネを集めた候補がこれまで両党の正式候補になってきた。88年のブッシュ(父)とデュカキス、92年のブッシュ(父)とクリントン、96年クリントンとドール、2000年ブッシュとゴアといった具合で、まさに「カネで大統領を買う」というワシントンで使われる言葉がそのまま現実になっている。

さらに両党で、「誰が大統領にもっともふさわしいか」と有権者に問うと、やはりヒラリーとジュリアーニがトップにくる。ヒラリーについては有権者の中で好き嫌いが激しいし、一方のジュリアーニは南部と中西部のキリスト教右派に推されるかという疑問もある。だが、「他候補よりはマシ」という論理が生きている。

急進している前アーカンソー州知事のハカビーが旋風を起こしている。けれどもカネが集まっていない。アイオワとニューハンプシャー両州のあと、どうにもならないといった状態がいまのハカビーである。カリフォルニア州やニューヨーク州といった大州ではジュリアーニの圧勝とみる。まだ理由はあるが、それは拙著に譲りたい。

08年大統領選挙は面白みにかけるくらい順当にヒラリーとジュリアーニが勝ち進むと思われる。2月5日に両候補が正式候補に決まれば、夏の党大会までは「もり下がり」の時期がくる。

外野席に座る人間としては波乱があった方が興味深いし、強力な第3の候補の登場を願ってもいるが、今回の選挙はこのままいきそうである。つまらないといってはいけないが。(敬称略)