日本人になるドナルド・キーン

ドナルド・キーンが先週、外国特派員協会の会見に姿をみせた。

89歳。ニューヨーク生まれの日本文学研究者は小さな人だった。年老いて背が縮んだことを考慮しても、アメリカ人にしてはかなり小柄である。だが、口調は60歳といってもいいくらい快活で、明瞭である。

記者の質問にもすべて丁寧に答える。しかも実直に。心中にまったく蟠(わだかま)りを抱かないかのような純粋さがある。それは研究者としての生活が長かったからという理由だけではないだろう。

2時間近くもさまざまな話をすれば、本人の輪郭はみえてくる。キーン自身の篤実な人間性がそこに表出する。幾多の文学賞を受賞していることは結果でしかなく、彼の本質は文学にたいする「熱誠」だと感じた。

そんな彼が日本国籍を取得して日本人になると決めたのは今春である。

「ニューヨークでの生活よりも日本で暮らす方が魅力があると思ったから」

会見ではそう簡単に説明したが、たぶん一冊の本を書けるくらいの熟考があったはずである。コロンビア大学での教鞭を今夏で終えたことも理由の一つだ。

私は人生のほぼ半分をアメリカで暮らし、多くのアメリカ人と接したが、彼ほど日本に対して肯定的で前向きな考え方を持ち続けている人を他に知らない。アメリカにあっては例外中の例外だろう。

いやこれからは日本人だ。しかも自宅のご近所さんである。(敬称略)