アメリカの行く末

年末にいくつかのメディアから「 2009年がどういう年になるか」という取材を受けた。明るい話題を探そうとしても、出てくるのは暗い話ばかりになる。

アメリカ発の経済危機は世界中を蝕んでおり、すでに不況というカテゴリーに入って久しい。ただ恐慌になるかといえば、そこまで悪化はしないかと思う。恐慌という言葉の定義は経済学者の間でもわかれるが、1930年代の大恐慌では失業率が25%に達し、銀行がばたばたと倒産した。25%という数字だからこそ恐慌の前に「大」がつくのだが、昨年11月のアメリカの失業率は6.7%、日本の完全失業率は3.9%で、失業者が町中に溢れかえるほどではない。

しかし、サブプライムの影響によってアメリカの投資銀行は姿を消してしまった。ゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーは銀行持ち株会社に変わり、メリルリンチはバンク・オブ・アメリカに買収された。そしてリーマンブラザーズとベアー・スターンズは破たんの憂き目にあった。別の経済指標である製造業景況指数も12月は32.4で、32年半ぶりの低水準である。

金融機関の崩壊は、金融商品があまりに複雑化したことで政府の規制が追いつけなかったことが一因である。金融工学が尖鋭化し、走れるところまで走ってしまったため、取り締まる側が追いついていけなかった。人間が生み出すほとんどの技術はまず、開発の結果が先行して世の中に現れる。それに対する規制や擁護は後手になる。金融商品しかり、ミサイル防衛しかりである。

4月にロンドンで開かれる金融サミットでは金融強化の連携が図られようが、今後は逆に、規制が強すぎることで良質な金融商品が誕生しにくくなる懸念がある。金融は社会にカネを循環させるという意味で重要で、カネが回りにくくなることも問題である。

そんな中、二つの「シルバーライニング(希望の光)」があると、あるメディアには答えた。ひとつは株への投資である。

「これほど不安定で株価が低迷している時に株を買うんですか?」

まっとうな疑問である。11月中旬にウォールストリートも兜町も3番底を打ち、相変わらず株価は低迷している。だが、株価の安い時期だからこその「買い」である。専門家は皆わかっていることだが、なかなか手がでない。すでに株で損をした人が多いからだ。

ジョージ・ソロスと共に「クァンタム・ファンド」を立ちあげて荒稼ぎしたビル・ロジャーズに以前インタビューした時、彼はこう強調した。

「株価の低い時にこそ買う。株価がさらに低くなったらもっと買う。歴史的にみて、株価が急落した翌年は平均15%以上のリターンがある」

だが、具体的にどの企業に投資すべきかについては言わなかった。それは個々人に課せられた宿題である。

もうひとつの希望の光は言うまでもなくオバマ政権の誕生である。「ホープ」と「チェンジ」を掲げて当選した大統領だけに、そのポジティブな波及効果は全米、いや全世界に広がるに違いない。特に化石燃料に代わるグリーンエネルギーの開発に対する動きが、30年代のニューディール政策、60年代のアポロ計画、90年代のIT革命に匹敵するくらいにまで高まれば、かなりの期待はできる。

 しかし、しばらくは日米のどこを向いても企業業績は上向かないし、内需不振と失業率の上昇というマイナス面が顔をのぞかせている。

さらに、私が最も危惧する危機はオバマの暗殺である。

「確率は50%くらいはあると思います」。

ある雑誌に答えた。いつ「オバマ暗殺」というニュースが飛び込んできても、私は驚かない。暗殺そのもののインパクトも大きいが、希望を携えて当選した政治家だけに、精神的ショックは大きい。

近年で最悪の年と、後年呼ばれないように祈るだけである。(敬称略)