短絡的なメディア

アメリカ大統領選挙のアイオワ党員集会がおわり、民主党ではオバマが、共和党ではハッカビーが首位を奪った。

多くのメディアは勢いに乗ったオバマに注目し、「オバマが大統領か」といったトーンの報道をしている。これはアメリカのメディアに見られる報道姿勢なので、日本の新聞・テレビも同じ流れである。

だが少し待っていただきたい。内外の報道を散見するかぎり、多くの記者は選挙の全体像を見失っているように思える。確かにオバマは有権者の心を掌握したメッセージを送った。それは昨年11月12日にアイオワ州デモインでおこなわれた集金パーティーの劇的ともいえるスピーチに表れていた。ヒラリーにはない「強さ」がそこにある。

けれども、オバマが首位を奪っても、それはアイオワ州だけのことでしかない。しかも大統領選挙システムはアイオワ州のすべての代議員をオバマに与えない。15%以上の得票率がある候補には均等に代議員が割り振られる。だからヒラリーもエドワーズも代議員を獲得している。

ヒラリー陣営のカネの力と組織力がそう簡単につぶれるとは考えにくい。アイオワで首位にきても、その後負けた候補は何人もいる。1988年のドールがそうだ。88年というのはパパブッシュが大統領になった年である。ドールのアイオワでの得票率は37%。くしくもオバマと同じだ。パパブッシュは19%だったが、ひっくりかえされる。民主党では88年のゲッパートや92年のハーキンがアイオワで首位を奪ったが、いずれも後に敗退した。

私は党員集会(コーカス)という会合スタイルで決めていくアイオワの選挙よりも、一般投票形式をとるニューハンプシャーの予備選(8日)の結果に注目している。ここで仮にオバマがヒラリーに10%以上の差をつけて勝ったとしたら、本当のバンドワゴン(勝ち馬に乗る)現象が全米を駆け巡る可能性がでてくる。

ただ私の読みはヒラリーへの順風である。それは92年に夫ビル・クリントンが「カムバックキッド」と自身を形容した底に渦巻く力である。当時、ビルはアイオワでたった3%の得票率だった。ニューハンプシャーでもソンガスに負けて2位。それでも大統領に当選する。

現在でもヒラリーはニューヨークやカリフォルニアといった大州で、オバマに約20ポイントの支持率の差をつけている。予備選というのは代議員数の獲得競争である。小さな州を10州失っても、大州で大勝すればいいのである。オバマにヒラリーを突き放す力があれば、ホワイトハウスは現実のものとなるかもしれない。(敬称略)