アメリカの分断

コーヒーを飲みに入ったカフェの隣席に、外国人が座っていた。英字新聞を読んでいる。外見からだけでは出身国は判別できないが、アメリカ人らしい空気を携えていた。

「日本には長いんですか」

日本語で訊くと、「ハイ、かなり」と返してきた。いくつかの大学で英語を教えているという。日本に来てすでに15年が過ぎたと言った。

「10年前はアメリカ人であることを誇りにしていましたが、最近は出身国を訊かれるまで言わなくなりました。むしろ、アメリカ人でいることが恥ずかしい」

その背後にはブッシュ政権の負のイメージが宿る。イラク戦争による負の遺産が世界中に撒き散らされ、人々の中のアメリカに汚点がついた。アメリカもずいぶんと嫌われたものである。

もちろん音楽や映画、ファッションやビジネス分野などで日米両国のつながりが途切れることはない。だが、横暴な国というイメージは一人歩きしている。

「とても残念なことです。来年の選挙で民主党が勝って新しいアメリカに生まれ変わることを望んでいます」

見事な日本語でそう語ったあと、彼はどこにでもいる普通のアメリカ人の顔をのぞかせた。じっとこちらの目を見つめている。誠実そうな顔立ちが、教師としての優しさをうかがわせる。

「アメリカはいまふたつの国を内包しています。ブッシュを支持する保守国家と反対するもうひとつの国家です」

以前からアメリカは政治的にずっとふたつに割れていた。しかし、ブッシュ政権になってからさらに顕著である。しかも社会格差が広がっているので、貧富の差という割れ方もあり、縦と横でアメリカは分断されている。

アメリカの外から亀裂をみると、その裂け目はますます深く大きくなっているように見える。その亀裂がふさがる気配がないのが残念である。