エジプトから見えるアフリカの現実

「国外ニュースはエジプトにハイジャックされ続けている」

ヨーロッパからの東京特派員が嘆いた。カイロでの反政府デモが起きてから、東京発のニュースは本国で使ってもらえないという。無理もない。エジプトでの騒ぎがなければ、相撲の八百長事件や新燃岳噴火のニュースが伝えられていた。エジプロだけでなくイエメンやヨルダンの反政府運動も勃発しており、しばらく中東の民主化運動から目が離せない。

私がギザのピラミッドに腰を下ろしたのは何年も前のことである。ラクダの背中に客を乗せて法外なカネを取るあこぎな商売が鼻につき、ピラミッドやスフィンクスの印象が一気に悪くなった記憶がある。

夕刻になると、ピラミッドの周辺に張り巡らされた柵に鍵がかけられて中を歩くことさえできない。そんなことは行ってみるまで知らなかった。しかし、ラクダ屋のオーナーは「カネをよこせば柵の中に入れてやる」という。それだけではない。警備兵に賄賂をつかませなくてはいけない。

    

            

一般観光客は夕刻から朝方までピラミッドに近寄ることさえできない。日中であれば、誰でもピラミッドのそばに駆け寄って写真を撮れる。しかし、必ずといっていいほど他人がファインダーの中に入る。しかし特別な入場料を払えば、ピラミッドの壁面に夕日があたる時間帯を「独占」できる。カネでなんとでもなる世界だ。

地元ではミネラル・ウォーターを買うのでさえ、観光客と地元の人とでは値段が違う。空港の警備員からもカネをせっつかれる。「袖の下」を渡すことでコトがスムーズに運ぶ国は何もエジプトだけではないが、守銭奴と言われるムバラクの統治が30年も続いた国らしい醜態が流布している印象だ。

現地で何人ものエジプト人と知り合った。ムバラクを褒める者はほとんどいなかった。貧困と社会格差、独裁体制が自らの首を絞めることになるのは時間の問題に思えたが、ここまで来るのに予想以上に時間がかかった。それほど反政府勢力は去勢させられていた。

民主化運動で独裁政権が崩壊することは間違いないが、現政権に代わってイスラム勢力と軍部が市民の代弁者になることは望まれない。こうした状況で思い出されるのが、アフリカの小国の駐米大使とある大学教授の言葉である。

大使はこう言った。「アフリカの小国は外からの攻撃を受けると、3日で政府が潰れてしまいます。けれども、国家を再建するには10年の歳月が必要です」。そしてある教授は諭すように述べた。

「アフリカの国々で今後、本当に民主主義が機能するかどうかはわかりません。日米だけでなくヨーロッパ諸国は民主国家ですが21世紀になってますます多くの問題を抱えるようになっています。今は中国の方が政治的にも経済的にも安定している現実があります。アフリカ諸国が中国を手本にしはじめる流れがあるのです」

言論の自由や反政府運動を認めない限り、真の民主主義とはいえない。圧政の下で生きた国民であれば、抑圧からの解放を求める力が強いのは必然だ。けれども、その声をどう収束していくかは別次元の政治力が必要になる。

外交の裏舞台でアメリカがエジプトの新政権にどう関与し、反イスラエルの国家にならないようにするかが見ものであると同時に、民主化という動きがアフリカで機能するかどうかを見られる好例となるはずだ。(敬称略)