ルイジアナ州で服部剛丈君が亡くなって20年

すっかり忘れていた。

1992年10月18日。ジャーナリストとして独立して2年目のことである。

ワシントンの自宅で朝食を食べ終えたところで電話が鳴った。東京の出版社からだった。知り合いの編集者は少し急いた口調で用件を口にした。

ルイジアナ州バトンルージュという町で日本人の留学性(高校2年生)が撃たれて死亡したという。飛んで取材してもらえないかという依頼だった。殺人事件の取材はワシントンでも何回か経験していたが、日本人が被害者になった事件取材は初めてである。

電話を受けてから2時間後には飛行機に乗っていた。服部君には申し分けないが、アドレナリンが出ているのがわかった。

地元の通信社や新聞社の報道が先行していたので大まかな情報は入手できたが、犯人のピアーズは逃げていた。

すぐに現場に向かう。隣人の男性に話を訊いた。その人は服部君が撃たれた直後、止血と心臓マッサージを試みていた。隣人だけあり、犯人の私生活なども聞くことができた。

血痕はピアーズ邸の駐車場ドアから50センチほど離れたコンクリートの上にあった。至近距離で撃たれたことは歴然としていた。

犯人は市内にある親戚の家にかくまわれていた。地元警察は泳がせておいた可能性がある。私は手を尽くして居場所を探し出し、インタビューを依頼した。だが親戚が言った。

「今はダメだ。静かにさせてやってくれ」

犯人は正当防衛を主張し、刑事訴訟では無罪判決が出されている。民事訴訟では服部君側が勝訴した。

その後、全米に銃規制の動きが強まり、94年にブレイディ法という銃規制の法律が施行されたが、10年間の時限立法だったため04年に失効している。

アメリカには約3億丁の銃があると言われる。銃規制が強化されたこともあり、犯罪数は少しずつ減少しているかに見えたが、規制強化と犯罪数に強い相関関係がないことがわかっている。

というのも、ブレイディ法が失効したあともアメリカの凶悪犯罪数は減っているからだ。アメリカの凶悪犯罪件数がピークに達したのは1991年。以後、ブレイディ法にかかわらず。減り続けている。凶悪犯罪数は91年に190万件強、2010年には120万件強まで減った。過去5年でも減少傾向は続いている。

銃規制よりも、実は失業率や景気の動向、社会格差といった経済要因が犯罪の遠因になっていることが多い。クリントン政権時代、持続的な経済成長を遂げたこともある。

ただ今でも世界一犯罪件数は多く、想像を絶するような事件が多発している。

できれば銃社会からの脱皮が理想であるが、これは今後50年たっても実現できない可能性が高い。

これからが勝負だが、、、

本当に予期せぬことは起こるものである。これは経験則を超えるという意味でもある。

日本でもアメリカ大統領選挙を丹念に追っている人は多いが、私もその一人であると思っている。公の席で「ライフワーク」とまで豪語している。だが、予期せぬことが起きた。

前回の大統領選についてのブログ(オバマ再選濃厚 )で、討論会を行っても「支持率が大きく動くことはもはや少ない」と書いた。ところが10月3日のオバマ対ロムニーのテレビ討論では、あまりにもオバマの受け答えに精彩がなかったため、ロムニーの支持率が5ポイントほど上昇した。

いまの時期にきての5ポイントは大きい。いま投票が行われれば総得票数ではロムニーが上回るという世論調査の結果もでている。

長い間大統領選を眺めていると、さまざまな角度から情報が入る。また自分で情報を取りにゆくので、幾層にも折り重なった事実が表面に浮上してくる。過去10日ほどはロムニーが盛り返したが、冷静に選挙情勢を眺めると、いまだに「ロムニー勝利」という文字は浮かび上がってこない。

11月6日の投票結果は、総得票数ではなく各州に割り当てられた代議員数の合計で決まる。激戦州ごとの世論調査や経済指標、集金した選挙資金総額、選対の組織力などを総合すると、いまでもオバマが有利という勢力図は動かないと見ている。

11月6日のオバマの得票率は51. 3%から52.5 %の間くらいだろうか。

ただアメリカではいま、大変興味深い現象が起きている。それはオバマほど分断されたアメリカを一つにしたいと断言してきた大統領を知らないが、結果は逆であるということだ。ギャロップ調査の統計では、民主党を支持する有権者の実に90%がオバマを支持する一方で、共和党支持者のオバマ支持率は8%でしかないのだ。

これほど右よりのアメリカ人に毛嫌いされた大統領は初めてだろう。逆に左よりの有権者には圧倒的な支持を受けている。クリントンでさえ共和党員の23%は支持していたのだ。

今後4年間、オバマが大統領でいたとしても、その深い裂け目を埋めることは多難である。(敬称略)

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by the White House

地球儀を抱いて寝ろ!

東京都内でIMF(国際通貨基金)・世界銀行年次総会が開かれている。世界中から中央銀行の総裁や財務関係者が集まっており、昨日、友人のドイツ人記者と共に関係者2人と懇談した。

会議の席や日本の政府関係者には言わないことをズバズバと口にするので気持ちがいい。

「日本国内でビジネスを展開するには相変わらずコストが高い。しかもデフレ状況は続いたままだし、わざと外国企業や外国人を迎え入れないようにしているとしか思えない規制が相変わらず多い。これでは日本の将来は暗い。目の前にあるドアを自分たちで閉じているようなもの」

日本はGDPで中国に抜かれたとはいえ、相変わらず世界3位の位置にいる。外国にとって巨大市場であることに違いはない。

私は「日本企業はどこの国にいっても適応する努力をしている。外国企業も日本市場に合わせて努力すべきだ」と主張した。

だが、彼らの主張は20年以上も変わっていない。

「市場に入ると非関税障壁がいまだに高いしコストも高い。21世紀になっても保守的で保護主義的なアプローチが横行している」

言い争いをしていても埒があかないが、意見が合った点は日本の政治が外を向いていないということだった。

スポーツ選手や研究者の中には世界で羽ばたいている人が少なくない。企業も国外で多角的な事業を展開している。だが、首相の野田の眼は外に向いているだろうか。国内の政局で手一杯という印象である。日本経済を上向かせるビジョンとその行政手腕も期待できない。

さらに2人は新しい財務大臣の城島にまったく期待していなかった。野田政権がもう長くないことは熟知している。ただ、ホスト役である日本の財務相が、官僚のメモなしで諸外国の財務大臣とマクロ経済の議論もできないのが現実である。日本がなめられるのは当然である。

建築家の安藤忠雄が9月下旬、テレビ朝日の報道ステーションに出演し、若者に対して「地球儀を抱いて寝ろ!」と述べていた。日本の国会議員にもぶつけたい言葉である。 (敬称略)

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