民主党への風

総選挙が迫っている。

永田町の人間でも一般有権者でも今度は民主党が、との考えは共通している。

しかし、15年ほど日本の選挙を眺めている知人のイギリス人記者は、「俺は信じないね。いままで民主党には何度だまされてきたか。結果がでるまで民主党が勝つと思わない」と猜疑心が強い。

4日、外国特派員協会にやってきた政治評論家の伊藤惇夫も、「日本の選挙は『風』という不思議なものに影響されやすい。投票日の3,4日前にならないとわからない。民主党はこれまであと一歩という時にミスをおかしてきた」と追い風が吹いているはずの民主党に疑問符をつける。

だがジャーナリストの上杉隆は「いま全国300の小選挙区を歩いている。どこにいっても自民党へ懲罰的な『風』が吹いている。05年の郵政選挙とまったく逆のことが起きているので、民主党が勝つのでは」と、民主党が勝つ可能性が高いという。7月の都議選の結果が如実に物語るように、自民党に疑問を抱いた有権者が民主党候補に一票を投じると考えるのは妥当である。

都議選の期間中、候補を何人か取材した。実家のある中野区では、民主党から新人の西沢という30歳の青年が出馬していた。今春まで議員秘書をしていた快活な候補である。準備は十分でなかったし、有権者のほとんどは彼について十分な知識を持ちあわせていなかったと思う。しかし、トップ当選する。彼に限ったことではない。流れは完全に民主党の水域に入っている。

この現象は日本だけの話ではない。オバマ政権が誕生した理由の一つは、アメリカ国民が反ブッシュの勢いに乗ったからという解釈がある。オバマ本人への圧倒的な人気も理由の一つだが、共和党8年で大きく右に振れた政治の振り子が必然的に左に振れてオバマ支持が広がったという見方は的をえている。

麻生の支持率はいま20%に満たない。今月30日、日本政治の振り子も右から左に振れる可能性が高い。ただ政権交代によって国内外の問題が解決するわけではない。オバマ政権が金融不況という嵐の中の船出だったように、日本の民主党政権にも荒れた海が待ち受けている。 

たとえば民主党マニフェストには、約100人の国会議員を官庁に配置して官僚主導の政治を改めるとあるが、効力を発揮するかは疑問だ。前出の伊藤がきっぱりと言う。

「政府に送り込まれる議員は若い議員が多い。たぶん1週間で官僚に取り込まれてしまうでしょう」

 何ごとも勉強ではあるが、時間的猶予は長くないのである。(敬称略)

鳩山をみた夜

民主党代表選挙を控えた水曜(13日)夜、六本木のANAインターコンチネンタル・ホテルの地下1階で、民主党衆議院議員小沢さきひとの後援会があり、出かけてきた。

小沢一郎ではなく小沢さきひと(山梨1区)、、、である。鳩山由紀夫のフトコロガタナといわれる政治家で、腰の低い、柔和な人である。私は後援会に所属しているわけではないが、以前、鳩山グループから講演を依頼された時に知り合った縁だ。

ざっとみて400人くらいはいただろうか。同じ民主党議員も20名ほどがかけつけていた。キッコーマンCEOの茂木友三郎、連合(日本労働組合総連合会)会長の高木剛の姿もあった。もちろん鳩山も駆けつけた。檀上に上がると、その日の主役である小沢さきひとの注目度を当然うわまわる。座っていた参加者が総立ちになって耳を傾けた。

「いよいよ見えてきたな。いよいよ政権交代だな、と思っています。身を捨ててこの国を救いたい」

その晩は正式な出馬表明の前夜ということもあり、「代表選に出ます」とは明言しなかった。

そうした状況を踏まえても、鳩山のスピーチからは首相になってこの国をリードしたいという強い意志が感じられなかった。印象はむしろ「リーダーとしては弱い」というものだった。アメリカの政治家ばかりを20年以上も見てきたからというわけではない。一言でいえば、リーダーに必須なカリスマ性が鳩山にはないのである。

「オーラがないですよ」

会場でばったり会った知人の政治ジャーナリストはいった。

鳩山はこれまで小沢一郎とタッグを組んできたことで、今は院政とか傀儡といわれるが、それが真実であってもなくても、「こいつならついていこう」という思いはその場では抱けなかった。旬な政治家のはずだが、ナマで聴いていても鳥肌が立つほどのインパクトはない。麻生よりはベターというレベルである。

その晩は定期で参加している議員との勉強会もあったので出席した。当然のように「鳩山では自民党には勝てない」という内容が話し合われた。小沢一郎の息のかかった議員(選挙資金などを工面してもらっている)たちは、それがわかっていながら鳩山を推さざるを得ないという、まるで自民党の政治論理がそのまま民主党にも息づいているかのようである。

「小沢(一郎)は自民党の手法を民主党にも持ち込んでいる」

もし民主党が総選挙で負けたときは、これが敗因の一つとなるはずである。(敬称略)

転がり落ちる政(まつりごと)

民主党から講演の依頼をたてつづけに2回いただいた。国会議員の前で講演することは初めてである。

党首が検察に目をつけられて支持率が下降している時期だったが、すべての民主党議員が右往左往しているわけではない。危機感はあるが、新しいことを吸収しようとの意識が議員にあることは間違いなく、一介のジャーナリストに過ぎない私を招いてくれた。

私はアメリカの話をし、議員たちからは小沢問題についての内情を聴いた。納得できる部分と、「小沢という政治家はカネのしがらみを絶てない」という両方の思いが去来した。

小沢が国家論を語れる数少ない政治家であることはわかっている。しかし、田中角栄と金丸信というカネがらみで有罪判決を受けた政治家の秘蔵っ子である。国民はその印象を払しょくできていない部分があるはずだ。少なくとも私の中には小沢という政治家からクリーンなイメージはない。それは小沢が小沢であり続けるかぎり、残りつづけるものだろうと思う。

小沢が自民党を離れ、民主党で政権を執ることを念頭に置きはじめた頃から、カネの受領には細心の注意を払ってきたはずである。にもかかわらず、今回の事件である。西松建設は昨年、タイでの洪水防止トンネル工事にからんだ裏金問題で逮捕者を出したが、億単位のカネを国内に流入させたと伝えられている。その一部が小沢にもたらされたと言われており、捜査の流れから小沢を無視できなくなったということだろう。

「東の小沢、西の二階(自民党)」という言葉どおり、建設業界からの献金は途絶えなかった。

残念なのは、不況のまっただ中にありながら、ほとんどのメディアが西松疑惑に翻弄されて、いまもっとも急がねばならない景気対策についての本質的な報道をしていないことだ。それは麻生内閣にもいえることで、予算を通せば済む問題ではなく、国民に対して首相がいくつもの対策を提示して、前向きな姿勢を示さないといけない。

「言うは易し、行うは難し」なのはわかっているが、今こそ政治家の決断力と実行力が必要な時はない。(敬称略)

定額給付金支持論

いつの頃から、人と違うことをすることに喜びを覚えるようになっていた。

大学卒業時、就職せずにアメリカに渡った時期からそれは顕著だった。それがいいか悪いかは別にして、多くの人と違う意見をいだくことに違和感はない。少数派でいることに多幸感のようなものさえある。

最近では定額給付金への支持がある。

多くの有識者をはじめ、国民の7割近くは定額給付金に反対している。それでも4日午後、定額給付金が盛りこまれた08年度の2次補正予算が衆院で再可決されたことで、国民は政府からのカネを受け取れることになった。

多くの人はバラマキだという。政府が「おカネをあげますよ」と言っているのに、「そんなカネいらない」といっているのは日本人だけだろうと思う。この点で文化人類学者や社会学者は日本社会と日本人の特異性を知覚するはずである。

「定額給付金」という相変わらず官僚が筆をとったニオイのする言葉ではなく、政府からの「差し入れ」と言い換えてもいいが、素直に受け取らない理由を有識者は、「2兆円を社会保障や雇用対策に使うべき」、「経済効果は微弱」と説明する。

経済学者たちは定額給付金のGDP効果は実質・名目合わせて0.2%程度と計算している。日本のGDPは約500兆円だから、2兆円の注入は単純計算で0.4%規模になる。1万2000円をもらっても使わない人が半分いるという計算なのかもしれない。

ただ、18歳以下と65歳以上は2万円の「差し入れ」だから、小さな子供2人がいる家族は6万4000円のボーナスだ。父親が「みんなで旅行に行こう」といったら、その金額だけでは足りないことが多いだろうから、お父さんの給料からさらなるカネが流れて、マネーフローが発生する。狙いはここである。

私は20年以上もアメリカの連邦政府と州政府に納税してきたので、なんどか「差し入れ」を受け取ったことがある。クレジットカードが氾濫しているアメリカだが、いまだに小切手社会なので、自宅の郵便受けに自由の女神が刻まれた小切手が入っていた。正確な金額は覚えていないが、数万円だった。私はそれでコンピューターソフトと本を買った。そのカネが市場に回る。

これを断る人はアメリカにはいない。たぶん世界中で日本人だけだろうと思う。「差し入れ」をなぜ断るのか、私にはかわらない。

確実に言えることは、麻生の話の切り出し方がまずかったことだ。国民への説明の仕方だけでなく、その後の話の展開もいただけない。私は定額給付金は支持するが、麻生の政治家としての能力には「失格」という烙印を捺す。 

どうして麻生や自民党はオバマ選挙対策本部が駆使したようなプロのメディアコンサルタントを使わないのだろうか。使っているとしたら機能していない。政策の内容も大切だが、それをどう国民に売り込んでいくかに力点を置かないと、政策は多くの場合、宙に浮く。

「さもしい」発言が飛び出しあとに、麻生は「受け取る」といった。そうなると「差し入れ」を受け取ることが「さもしい」ことのような解釈が自然発生する。世間体を気にする国民だけに、「1万2000円ほしさに役所に取りに来た」という目は気になるのかもしれない。

アメリカではこれを「減税」と呼ぶ。消費税はだれでも支払っているはずで、それが還元されると考える方が適切である。私はもちろん「差し入れ」をいただく。(敬称略)

ヒラリー訪日の真意

ヒラリー・クリントンが訪日した。彼女の「最初の外遊先が日本だった」と浮かれているのは、ごく限られたメディアと国際関係にウトイ人たちだけだろう。

ヒラリーもオバマも日米関係が盤石であることはよくわかっているし、両国の文化交流と財界における個々の絆の深さは熟知しているはずだ。同時に、彼らは日本が東アジアの諸問題を主導的に解決できないことも知る。まして現在の世界的な不況と金融危機、貿易総量の減少というトリプルパンチに、世界第2位の経済大国の日本が効果的治療薬を投与できないことも理解する。だが、外交舞台である。むやみに日本を責めたりはしない。

オバマの最初の外遊先がカナダであることでもわかるように、ヒラリーはいきなり緊迫した地域であるガザとイスラエルに飛んで和平を急いだりはしない。イラクとアフガニスタンにもいかない。まずはアジアで肩ならしである。

ヒラリーがアメリカを離れる前週の金曜(13日)、ニューヨークの「アジア協会」で講演を行っている。そこでのスピーチに、今回のアジア歴訪の意図が見え隠れする。

「外交と国際開発の新しい時代に突入した。古くからの同盟国と新興国と手を取り合って、『スマートパワー』を有効利用して直面する世界的、地域的な諸問題を解決していかなくてはいけない」

このくだりは大枠のビジョンである。その先に、核心がのぞいている。

「中国がどれだけ大切か。前向きで協調的な中国との関係が東アジアだけでなく世界中にとってどれほど不可欠かは論を俟たない。(中略)米中両国の経済協力は核兵器の安全保障や気候変動、そして伝染病対策にいたるまで極めて重要だ」

アメリカにとって、中国はいまだに主義主張と価値観の違う国だが、お互いが避けて通れないパートナーであるという意識をヒラリーはもつ。

一方、彼女は先月の上院公聴会で「日本は東アジアの要(コーナーストーン)」と言った。それに嘘はないだろう。しかし、日本の先に大国の中国が透けている。アメリカではほぼ10年前から、アジアで最重要の国家は日本ではなく中国という共通認識ができている。それはクリントン政権の90年代、日米関係が「アメリカにとって最重要な二国間関係」と表現されたが、近年は「たいへん重要な二国間関係」にトーンダウンされている。ヒラリーも今回、日米関係を「たいへん重要」といった。

それだけではない。麻生内閣のふがいなさは今や世界中に伝播している。有楽町の外国特派員協会の特派員たちと話をすると、すでに麻生の政治生命は終わっているとの声が聞かれる。

イギリス人記者は「麻生のような脆弱な政治家がリーダーでは、現在世界中から期待されているオバマと対等でいられるわけがない。日米関係は過去60年以上ずっと片務的だったが、いまはこれまで以上にワンサイドになっている。ヒラリーを迎えても、日本人は相変わらず意味不明の微笑で応えているだけ」と現実を語る。

ドイツ人の経済記者はもっと醒めた見方をする。

「国内での支持率が10%以下の麻生が世界でリーダーシップを発揮できるわけがない。それでなくても国際舞台でリーダーシップをとれないのだから、日本が主導して世界的金融危機を脱出させられるわけがない。ガイジンはみんな日本の政治家に呆れていることを日本人は知るべきだ」

ガイジンだけでなく、すでに9割以上の有権者が麻生に愛想を尽かしているので10%を割り込む支持率なのだ。国務長官ともなると記者ほど本音を語らないが、ヒラリーは今回、次期首相の可能性がある小沢との会談をもっとも期待していたに違いない。(敬称略)