オリンピックと限界(2)

先日、あることに気づいた。

ソチ五輪の競技をテレビで観ていても、胸の奥を鋭利なナイフで突かれるような衝撃を受けない自分がいるのだ。

選手のパーソナルストーリーなどは興味深いものがあるし、日本人選手がメダルを獲れば嬉しいが、競技そのものから強いインパクトが去来しない。閃光が走るような瞬間が訪れない。

なぜかと考えると、ある要因が思いあたった。世界記録が生まれていないのだ(オリンピックと限界 )。

2年前のブログでも書いたが、人間が人間である以上、過去の偉人たちが達成した世界記録を塗りかえることが難しくなっている。それはある意味で限界というものが見え始めている証拠なのかもしれない。

羽生結弦がショートプログラムで史上初の100点台をたたきだしはしたが、他の競技では18日までに世界記録は1つも生まれていない。

冬の五輪は夏と違い、スピードスケートなど限定された種目だけが過去の記録と比較できるのでしかたがないが、「世界記録が生まれましたあ!」というアナウンサーの叫び声は今回の五輪では1度も聴かれていない。

五輪記録は男子も女子もスピードスケートの500メートル等ででているが、世界新ではない。こちらの期待が高すぎるのかもしれないが、心の中には一抹の寂寥感がただよっている。(敬称略)

ゴーストライターズ

12日になって謝罪文を報道機関に公表した佐村河内守。ゴーストライターをしていた新垣が6日に会見をひらいてから1週間近くも音沙汰がなかったので、自害も案じていた。

謝罪文の内容に信憑性があるかないかは別として、今後は民事訴訟が起こされて多額の賠償責任を負うことになるだろう。アメリカであれば、偽証罪等で刑事罰に問われる可能性も高い。

私がここで述べたいのはゴーストライターのあり方である。

言うまでもなく、ゴーストライターは過去も現在も数えられないくらい存在する。特に出版業界では、ゴーストライターなしでは成り立たないと言っても過言ではないほどで、多くのライターが代作をしている。

タレントやスポーツ選手、政治家などが本を出版する時、8割以上はゴーストライターが手がけていると思って間違いない。モノを書き慣れていない人が原稿用紙で300枚も書くことは大変な作業である。

書けたとしても、一般読者に読んで頂ける文章でなくてはいけないし、多大な時間も必要になる。そうした要件を満たせる人は少数派だ。

本を手にとる側も、最初から「ゴーストライターが書いたものだろう」との思いはある。特に有名タレントが著者の場合、時間もエネルギーも筆力もないことの方が多いので、暗黙の了解でゴーストライターに頼る。

出版する時には、ゴーストライターがタレント等に著作権を譲渡し、印税等についての契約も交わされている場合が多いので、出版サイドでのトラブルはあまりない。

十分に筆力がある人でもゴーストライターを使っていることがあり、何度か驚かされたことがある。それほど多いのだ。ただ私のこれまでの著作はすべて自分で書いている。

いくら出版業界の慣行だとしても、まったくゴーストライターの名前を記さない時は厳密には読者をだましていることになる。ネット上で裏話が明かされたからそれでいいというものではない。

さらに芸術性の高い作品はなおさらである。音楽や絵画、小説がゴーストライターの手によって仕上げられていたとしたら、これほどの欺瞞はない。今回のケースが好例である。

「ダイエット本をゴーストの人に書いてもらいました」という時でも、本来はゴーストライターを明記しないと読者を偽ることになる。

あとがきや巻末にゴーストライターの名前が「編集協力」や「構成」という形で記されることがある。本来はすべての本でそうすべきだろう。それでないと読者からの本当の信頼は勝ち取れない。(敬称略)

並外れた関心:フェイスブック

「1日10万ページビュー(pv)を超えたら大ヒット記事です。堀田さんの記事は21日だけで22万ページビューに達しました」

日経ビジネスオンラインの担当編集者はメールでそう書いてきた。

今週書いた拙稿『やはり進んでいる若者のフェイスブック離れ』への読者アクセス数がこれまで書いたどの原稿よりも多かった。22日、23日になってもアクセスは増え続け、いまは40万pvを超えているかもしれない。

これは私が書いたからというわけではない。フェイスブックがテーマだからである。しかも、ティーンはもう使わないという内容なので、読者の興味をそそったに過ぎない。

2年前からフェイスブックは終わるという内容の記事を書いている。2年前は激怒した読者が辛辣な批判を私に向けることもあったが、いまは状況が変わった。

今さら誰もが知るような内容を書いてどうしたのかという思いさえ感じる。だから40万ほどのアクセスがあっても、「とても参考になった」という方は3割にも満たない。6割近くが「参考にならなかった」と回答している。

ただ記事に対する「いいね」ボタンは4500本に達し、ツイッターのリツイートを入れるとどれくらいの数字になるのかは正確につかめない。同意してくださった方もいれば、その逆の意味で読まれた方もいるだろう。

ファイスブック利用者の心情としては、なくなっては困るものだろうから、今後の成り行きに興味があってアクセス数が増えたようだ。

日本経済新聞のオンライン版に登場したのも読者数が増えた理由かもしれない。さらに他のニュースサイトへの転載もあった。相乗効果が働いた結果である。

しかし40万のアクセスがあっても、私のところに直接メールやコメントを寄せてきた人はいない。40万分のゼロである。書いた本人には興味がないということだ。

世の中、そんなものである。

ペンタゴンのダイエット:新孤立主義

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by the White House

ペンタゴンがダイエットをする?

過去10年以上、アメリカはアフガニスタンとイラクで多くの米兵の死傷者を出してきた。戦費もかさんでいる。戦争はもうたくさんというのが多くのアメリカ人の本音だ。

ペンタゴン(国防総省)もそのあたりをよく理解しており、本国のはるかかなたでの戦争はいい加減にして、そろそろダイエットしましょうという言い方が登場している。それが「The Pentagon is on a diet」という表現だ。

オバマは大統領になる前からアフガニスタン、イラクでの戦争を終わらせると言い続け、2011月末にイラクから完全撤退した。最近またイラク国内でのテロ組織による活動が活発化しているため、イラク政府はホワイトハウスに米軍の再派兵を依頼したが、いまのところ検討していないという。

オバマ本人だけでなく、政権内部の人間もどうやら中東問題への軍事介入はできるだけ控えたいらしい。こうした姿勢を米メディアは昨秋から「新孤立主義(New Isolationism)」と呼んでいる。

オバマ版の新孤立主義は前向きな思考の結果ではなく、「他人のことはもう知らない」的な態度による悲観的で消極的な心持ちからきているようだ。

となると、過去何十年も言われていたアメリカによる「覇権」というものとは縁遠くなる。

オバマ政権の任期終了まであと3年。アメリカは小さな巨人になりつつある。(敬称略)

ブラックヒール

数日前、ある異変に気づいた。

風呂に入っている時、右足のかかとに黒いあざができている。少なくとも2カ月前にはなかったものだ。最初は何かが付着していると思い、こすってみたが落ちない。強くこすっても剥がれない。

「これはまずい」

脳裏にはすぐにメラノーマ(悪性黒色腫)という言葉が浮かぶ。足の裏やかかとは普段、注意深く見ないところである。気づかなかった。大きさは横が9ミリ、縦が6ミリ。

ネットで調べると悪いことばかりが眼について力が失せる。「気づいた時には遠くの臓器に転移している可能性が高い(50%)」、「急速に大きくなり、直径5ミリ以上になったものは要注意」、「色素斑の周囲がぎざぎざに不整になったりしている」といった特徴はすべてあてはまる。若年層でも発生するが、歳をとるにしたがって罹患率が高くなるとの指摘もある。

「これはまずい」

翌朝、すぐに皮膚科に行くことにした。それも大学病院の皮膚科に直接行くことにした。ネットで検索すると、その日の午前中に皮膚腫瘍を専門にしている医師が診察していることがわかる。

アメリカから日本に戻ってきてよかったと思うのはこういう時である。アメリカでは予約なしに皮膚科医に診てもらうことはほとんど無理である。救急病棟に行けば別だが、風邪でも腹痛でも予約をして病院にいくのが前提だ。

ましてや大学病院に紹介状もなく、朝一番で行って診てもらうことは「常識がない」と思われても仕方がない。しかも、医療保険に入っていても医療費はかなりの額を支払う覚悟が必要だ。

その日の朝、綺麗な大学病院は混んでいなかった。4人の皮膚科医が4つの部屋に別れて診察していた。自分の番号が部屋の外にある電光掲示板に示されてから入室する。

鼓動が少しだけ速まる。もしメラノーマであれば何をまずすべきだろうか。ネットでは余命1年と診断された患者さんの話もでていた。そうなった時、何がプライオリティーになるか、、、。

日に焼けた皮膚科医はいくつかの質問を繰り出してきた。私はメラノーマの可能性を口にしたが、医師は少し微笑んでいるように見えた。

「それでは診ましょう」

右足の靴下を脱ぐ。黒い患部を示す。すぐにはっきりした口調で言われた。

「アー、これは違います」

少しだけほっとする。

「赤黒いでしょう」

医師はそう言いながら、大学の研究のために写真を撮らせてほしいと述べて、2台のカメラをもってきて接写した。その写真を示しながら説明してくれた。

「これはブラックヒールです。腫瘍ではないです」

ブラックヒールとは運動などによって足裏やかかとにできる内出血である。

「最近、過激な運動をしたりしましたか」

「定期的に走ったり、泳いだりしています」

ブラックヒールという名前すら知らなかった私は、新しい事をひとつ学んで帰路についた。

紹介状がないので3100円の初診料特定療養費の他に1000円強の診療費を支払うことになったが、安い授業料だと思っている。仮に1カ月以上経っても黒いあざが消えなかった時は、またブログでお知らせいたします。