堀田佳男 Profile
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メタ情報
カテゴリー: Thought for the day,国際政治 ― 2018年12月8日
映画『フロントランナー』

frontrunner12.8.18

 

昨日、ソニー・ピクチャーズの招きで新作映画『フロントランナー』の試写会に行ってきた。

アメリカではすでに公開されている作品で、大統領選のフロントランナーだった候補が出馬を辞退するまでの裏舞台を巧みに描いた実話である。その候補というのは1988年の大統領選に民主党から出馬していたゲイリー・ハートだ。

コロラド州選出の上院議員だったハートは当時、ホワイトハウスに最も近い位置にいた。だが、ドナ・ライスという女性との情事がメディアに暴かれ、ハートは浮気を認めざるを得なくなって選挙から撤退する。映画ではメディアとのやりとりが克明に再現されている。

これまでも女性問題を追及された大統領候補はいた。たとえば92年のビル・クリントンや2016年のドナルド・トランプがそうだ。だが2人とも辞退せずに当選を果たす。ハートとクリントン・トランプではいったい何が違ったのか。

特にトランプの女性問題への対応はハートとは真逆である。認めるどころか、これ以上ないほどの自信を表面的にまとって女性問題を否定し、無視しつづけた。まるで情事など無かったかのように振る舞ったのだ。ハートの失敗から学んだのかもしれない。メディアに弱みを見せてはいけないということを。

ハートは、大統領としては純粋すぎたのかもしれない。時に役者を演じられないとアメリカ大統領は務まらない。その点でトランプは一枚上手だったと言えるのかもしれない。

カテゴリー: Thought for the day,国際事情 ― 2018年12月6日
パパブッシュの思い出

パパブッシュ(ジョージ・ハーバート・ウォーカー・ブッシュ)元大統領が亡くなった。

私にとってはたいへん思い出深い大統領である。というのも、ワシントンでフリーのジャーナリストとして独立した年(1990年)の大統領がパパブッシュだったからだ。

ホワイトハウスの記者証を得て、あの白い館に出入りするようになったのもパパブッシュの時代だ。92年の再選時、ビル・クリントンに敗れた時の表情はもの憂げで、手を差し伸べてあげたいほとだった。

彼が再選で負けた理由の1つは、選挙公約を破ったことにある。

「リード・マイ・リップス(言うことを信じて)!増税はしません!」

こう宣言して大統領になったが、増税を実施してひんしゅくを買った。クリントンは選挙期間中、ブッシュが言った上のセリフをテレビCM用に切り取って繰り返し流した。

「こんなウソつきを次の4年も大統領にしていていいんですか」という内容だった。

私は共和党支持派ではないが、少しだけパパブッシュの弁護をしたい。実は政権発足後も、彼はずっと増税反対派だった。その政治スタンスは変わらなかった。しかし連邦議会は民主党が主流派で、増税案を成立させたのだ。

パパブッシュが法案に署名しなければ法案は法律にならない。署名しないオプションもあったが、国家としての財政赤字が膨らんでおり、税収をあげることは共和党サイドからの要望でもあった。

そして民主党と増税案を調整し、最終的に署名したわけだ。結果的に増税することになり、選挙公約は破られることになったが、苦渋の選択だった。

人のいい、穏やかなおじいちゃんに見えるが、中国大使を経験し、CIA長官も務めた外交の表も裏も知る老練な政治家だった。

ご冥福をお祈りいたします。(敬称略)

georgebush12.6.18

Photo courtesy of NARA

中国大使時代。妻ローラ・ブッシュさんと。

カテゴリー: Thought for the day,国際事情 ― 2018年11月29日
ゴーン逮捕が示す日本の美点

日産のカルロス・ゴーン容疑者(以下ゴーン)が逮捕されて10日がたった。

いまだにゴーン関連のニュースは後を絶たないし、次から次へとあらたな不正がでてきて、勾留期間は当初の20日間よりも長くなりそうだ。

昨日、ラジオフランスのインタビューを受けて、日本の司法について思っていることを述べた。フランスがメディアを含めてゴーン擁護の考え方に偏っていることは知っていた。だから敢えて言った。

「日本の検察がゴーンを逮捕したというのは、ゴーンが罪を犯した証拠を握っていた証し。日本では起訴された容疑者の99%が有罪になります。証拠があいまいな中で日本の検察は逮捕に踏み切らない」

いま欧米からは日本の司法のあり方が「前時代的だ」とか「推定無罪を理解していない」という批判が噴出している。

私も米国に四半世紀もいたので、基本的人権や推定無罪については理解しているつもりだ。だが、日本の検察はすべての案件で、「あやしい輩」を起訴しない。つまり、重要な事件で起訴に動いているということだ。

日本の裁判件数をみても、過去30年間減り続けている。確実に「罪をおかした悪人」を起訴する傾向が強まっている。

言い換えれば、逮捕の前に徹底的に捜査を行い、事実関係を調べ上げて犯人を特定した上で起訴に踏み切っている。犯人は自白せざるを得なくなる。

アメリカにはいま連邦・州を合わせて受刑者が約230万人もいる。日本は6万弱である。人口がアメリカのほぼ3分の1であることを考えても、大変少ない。初犯であれば執行猶予がついて実刑にいたらないことも多く、アメリカ的な検挙と司法判断をつかうと日本の受刑者は何倍にもなるだろう。

それほど日本の検察は厳格に容疑者を調べてから手錠をかけているということだ。これは欧米には真似のできないことであり美点でさえある。

理念的には有罪判決がでるまで「推定無罪」という考え方があってもいいが、日本の司法に限っては起訴=有罪という図式であり、日本の司法の特質だろうと思う。

カテゴリー: Thought for the day ― 2018年10月28日
忘れ物

アメリカでの取材で今回、イタイ忘れ物をした。日本を発つ前、国際免許証を自宅に置いてきてしまったのだ。アメリカで車を運転できないというのは、小学生に自宅のリビングだけで遊ばせるような閉塞感を味わわせるくらいのものがある。

レンタカーはすでに予約してあった。ワシントンのレンタカー会社のカウンターで初めて国際免許証がないことに気づき玉砕。本当に血の気が引くのを感じた。

ワシントンは地下鉄とタクシーで市内を動けはするが、やはり車があるのとないのでは大きな違いがある。ただ久しぶりに徒歩での移動をすると、車だけで動いていた時には見えなかったものが眼がはいる。

20181019washington1

Rosslyn station in VA

不動産屋の広告や新しいビルの中に入っている会社がわかったりする。車を運転しながらだと、「ここに不動産屋がある」ことはわかるが、ドアに貼り出された物件や値段まではわからない。

車内からだと「新しいビルができた」ことはわかるが、「最上階が展望台になっている」ことはわからない。それが当ブログで10月23日にお伝えした展望デッキだった。

ビルの横を歩いているとき、「また新しいビルができた」と思いながら中をのぞくと「展望デッキ」という文字が読めた。すぐに入ってみる。22ドルで上までいけるという。

バージニア州アーリントンに建つビルは、周辺ではワシントン記念塔(169m)に次ぐ高さ(131m)だった。高度的には息を飲むというより2、3回のまばたきくらいのものだが、新しいものに出会えた喜びは大きかった。

徒歩も捨てたものではないのである。

カテゴリー: Thought for the day,国際事情 ― 2018年10月27日
危険国に向かうということ

毎日世界中でいろいろなニュースが起き、物凄い本数の記事や映像が溢れている。できるだけ多くの事象に接するようにしているが、限界がある。いくら「好きなことを仕事にした」とはいえ、すべてのニュース分野で精通できるわけではない。

アメリカで中間選挙の取材をしていると、オバマやヒラリーなどに宛てた爆発物送付事件が起きて、メディアの関心が一気にそちらにシフトしてしまった。日本の新聞では爆発物送付事件としているが、死傷者がでていなくとも紛れもないテロリズムであり、テロ未遂事件とすべきだろう。すでに容疑者は逮捕された。

日本のニュースに眼を向けると、日中首脳会談を筆頭に、安田純平が無事に帰国したニュースが伝わる。無事でなによりだったと思うが、安田の言動にはいま賛否両論がまきおきている。

彼については2016年3月19日の当ブログで私見を述べたとおり、私はいまでもシリア入国は無謀だったと考えている。戦場ジャーナリストという点では、15年2月(同じジャーナリストとして思うこと)でも書いたとおりで、考えに変化はない。安田の今回の帰国は残念だが「負け」であり、シリアでの丸腰の取材は私にいわせれば無謀と言わざるを得ない。

こうした形での帰国はたぶん、実は本人がもっとも無念に思っているだろうと思う。リスクが伴うことは最初から彼はよく理解していただろうし、拘束され、また殺害される危険性も認識してシリアに入ったはずだ。だが、アルカイダ系のヌスラ戦線の支配地域に足を踏み入れることは、丸腰で犯罪者組織に分け入っていくようなものでしかなかった。

日本政府が渡航自粛といったところで、私も北朝鮮やホンジュラスなどに入って取材をしてきたし、危険国でのリスクはよく分かっているつもりだ。国や地域、さらに時間の経過によって状況が変わり、リスクも変化する。それでも自分の身を守ってこその取材のはずだ。

私がヌスラ戦線の兵士であったら、安田と出会ってまずスパイであることを疑う。ジャーナリストと名乗っても、もっともカモフラージュしやすい職種であるため拘束する。シリアの状況は3年前と少しちがうが、戦場であることに違いはない。身代金を取るビジネスの一環として利用しさえするだろう。

フリーのジャーナリストが現地に入ることで「テロ抑止力が少しは働く」「誰かが報道しなければ」といった意見があるが、希薄で曖昧な言説だと思う。ジャーナリストの仕事に価値を置いていただけるのは嬉しいが、世界を動かすことはそれほど易しくないのが現実だ。

私が行くなら漠然と領内にはいるのではなく、アラビア語をマスターし、あらゆる手をつくしてヌスラ戦線の首領のインタビューをとりつけたり、内部情報提供者を確保するなどの具体的な計画の段取りができないかぎり入国しない。そして民兵をつけるか米兵に帯同する。

彼らがどういった悪行を繰り返してきたのか、被害者の声を聴かなくてはいけない。彼らの胸ぐらをつかみにいくくらい内容のある報道でないと、何が変わるというのか。それができずして、単に現地入りするのはリスクが高すぎる。(敬称略)