ウクライナ:軍事衝突か

ウクライナ情勢が緊迫してきている。バイデン政権は、ロシアがウクライナにいつでも軍事侵攻できる段階にきていると判断し、米時間24日に米軍8500人を周辺地域に派遣すると発表した。

私は「バイデンノート」というものを作っていて、バイデン政権の動きを日々記録している。それによると昨年12月9日、バイデン大統領は「ウクライナには米軍を派遣しない」と発言していた。少なくとも1カ月半前までは、バイデン氏は軍事衝突は望んでいなかったし、経済制裁にとどめておくと述べていた。

年が明けた1月6日の段階でも、こう述べている。「(ロシアがウクライナに軍事侵攻した時は)ロシアの経済と金融システムに非常に大きな代償を負わせる」と言うにとどめ、米軍の派遣には及んでいない。

しかし過去数週間で、バイデン氏は強硬策へと傾いていく。これはホワイトハウスに、ロシアのウクライナ侵攻の情報が確実にあげられてきたということであり、プーチン大統領は米側の経済制裁にはまったくと言っていいほど影響を受けていないことを意味する。

ロシアの専門家の中には、軍事侵攻は起きない可能性が高いと述べる人もいる。というのも2014年にロシアがクリミア半島を併合した時、同地に住んでいた230万人がロシア市民になったことで、ロシア政府はかれらの年金や諸々の手当ても面倒みなくてはいけなったというのだ。

プーチン氏はウクライナでまた同じことをするだろうか。今後数週間で、ウクライナ情勢は大きく変わるかもしれない。

盛り下がる中間選挙

アメリカでは今年11月8日、中間選挙がある。大統領選が4年ごとに実施される中(前回は2020年)、その中間にあたる年に連邦上院の3分の1(34議席)と下院の全議席(435議席)が改選されるのが中間選挙だ。

大統領選は世界中から注目を集めるが、米議会の選挙には大きな関心が払われない。それは何も外国人だけでなく、アメリカ人でさえ中間選挙に関心を寄せる人は多くないのが実情だ。普段から国政に興味を抱いている人が多くないのは、投票率を眺めると理解できる。

大統領選では4年ごとに約60%の投票率があるが、中間選挙になると40%前後にまで下落する。4割に満たないことも多く、逆に中間選挙に投票所にいく人は政治に対してそれなりの思い入れがある有権者であることが多い。

同時に、現政権に不満を抱いている人が中間選挙に足を運ぶことも多く、与党は中間選挙で負ける確率が高くなる。政権与党の民主党はいま、上下両院で過半数の議席を確保しているが、11月は両院で負けて少数党になる可能性がある。そうなると、バイデン大統領は2024年まで任期があるので、ホワイトハウスと議会はいわゆる「ネジレ」を起こすことになる。

今年11月に民主党が両院で共和党に負けて過半数を割れば、24年の大統領選までバイデン氏はレームダック(死に体)ということになり、大統領が主導する法案はことごとく議会で否決され、ワシントンの政治はなかなか前へ進まなくなる。こうしたことは何もいまに始まったわけではなく、連綿と続いてきたワシントンの旧弊な制度であり、「新しモノ好き」のアメリカ人でも変えられずにいることである。

世界とデカップリングする中国

米中両国の間でしばらく前から「デカップリング(分断)」すべきなのか、それとも「カップリング(結合)」しておくべきかとの議論が交わされている。

これは端的に述べれば、中国との関係を緊密にしておくべきか否かということで、大きな政治・経済決断が必要となる。両国間には貿易問題だけでなく、地政学的問題、さらには人権問題や環境問題なども加わり、以前よりも不確実性が高まっている。

中国は経済活動におけるナショナリズムが以前よりも強固になっているとの見方があり、米国内には中国への関心を相対的に低下させるべきとの声もある。

中国とのデカップリングを最初に説き始めたのは、ドナルド・トランプ政権時代の主席戦略官だったスティーブ・バノン氏で、2018年に同氏は「米国は中国をデカップリングすべきだ」と主張したことが始まりと言われている(続きは・・・世界とデカップリングする中国)。

中国、アフリカに軍事基地を建設か

米紙ウォールストリート・ジャーナルは5日、中国が西アフリカの赤道ギニアに軍事基地を建設する予定であると報じた。この報道は同紙のスクープで、米政府はすでに報告書を作成しているという。米政府はまた、赤道ギニア政府に対して中国のこの動きを拒否するように要請しているという。

中国の軍事基地が建設されようとしているのは赤道ギニアのバタ市で、同市はすでに中国船籍の商業港として使用されている土地でもあり、アフリカ内陸につながる高速道路も建設されている。すでに足がかりのある場所に軍事基地を建設するということは、ほぼ間違いなく中国海軍は 大西洋で プレゼンスを示し、地球規模の安全保障政策のなかで存在感を高めようとの狙いがあるためだろう。

赤道ギニアのオビアン大統領も、中国側の意図をくみ取り、習近平主席との電話会談を行った後、「中国をもっとも重要な戦略パートナーとみなしている」との声明を発表したほどだ。カネを提供する側と享受する側の持ちつ持たれつの関係ができあがりつつあるようだ。こうした状況下で、米政府が赤道ギニア政府に中国軍基地建設を却下するように要請しても、どこまで受け入れられるのか。

中国はアフリカ東海岸のジブチにも2017年、 人民解放軍初の海外基地を建設しており、着実に国外で布石を打ってきている。 ジブチはスエズ運河の入り口にあたる国で、北に紅海、東にアデン湾が望める戦略的な土地で、年間2万隻が航行する重要な拠点だ。

そしていまアフリカ西海岸の赤道ギニアにも拠点をもつことで、中国の拡張的な世界戦略が一歩ずつ前へ進んでいるかのような印象を受ける。それは紛れもなく、世界の国々が米国側につくのか、それとも中国側につくのかの選択を迫られているということでもある。

パウエル氏の残像

コリン・パウエル氏が亡くなった。米国の元国務長官であり、統合参謀本部議長という米軍のトップに立っていた人物でもあった。91年の湾岸戦争を短期間で終わらせたとして、その手腕が高く評価されもした。

ただ私は個人的に、1995年11月のあるシーンが脳裏に焼きついている。ワシントンでフリーランスのジャーナリストとして独立して5年目だった私は、パウエル氏が96年大統領選に出馬する可能性を追っていた。当選すれば米国初の黒人大統領になるし、人物的にも能力的にも申し分のない人であると思っていた。

from twitter

当時の大統領は民主党ビル・クリントン氏。いくつかの世論調査ではパウエル氏が支持率で現職クリントン氏を上回っていた。だが95年11月初旬、同氏は大統領選には出馬しないという会見を開くのだ。

当時、パウエル氏のもとには「大統領になったら暗殺する」という脅迫が舞い込んでいた。そのためパウエル夫人が暗殺を憂慮して出馬を辞退させたという報道が出回った。ただ辞退した本当の理由は違うところにあると思っている。

パウエル氏はあの時、ある場所で「出馬を何度も何度も考えた」と述べたあと、次のようなことを口にしたのだ。

「自分の心の奥底をみつめてみました。35年間の陸軍勤務で国民との信頼関係を築いてきたとの思いはあります。しかし(大統領になるという)政治への情熱的なコミットメントが自分にはないことがわかりました」

これほど実直で、素直な心根を表にだせるということ自体、米軍トップにいた人としては稀有なことだろう。さらに自分自身に嘘をつかない態度はたいへん好感がもてた。私は政治的にはパウエル氏と違う立ち位置だが、人物的にはあれからずっとパウエル氏のファンでいた。

ご冥福をお祈り申しあげます。