ウクライナ軍事侵攻で米ロ対立はどこまで行くか

「ロシア側から戦争をしかけることはない」

2月2日、ミハイル・ガルージン駐日ロシア大使は筆者の目の前で、はっきりとこう述べた。その口調に淀みはなく、自信に満ちあふれていた。その明快な語り口から、その頃特定の専門家が指摘していた通り、ロシアはウクライナに軍事侵攻しない可能性があるとの思いを抱いたほどである。

しかし3週間ほど経った2月24日、ロシアはウクライナに軍事侵攻する。大使の「戦争をしかけることはない」との言説はどこにいったのか。ガルージン氏はロシアの外交使節団の最上級にいる特命全権大使であり、ロシアという国家を背負っている人物である。

ロシアがウクライナに侵攻したことで、国家が嘘をついたと解釈されてもおかしくない。そして同大使は2月25日午後2時過ぎ、日本外国特派員協会の会見に現れて、軍事行動についての言い訳をする(続きは・・・ウクライナ軍事侵攻で米ロ対立はどこまで行くか)。

いよいよ戦争

「ロシア側から戦争をしかけることはない」

今月2日、ミハイル・ガルージン駐日ロシア大使が東京丸の内で口にした言葉である(「これは地政学的なゲームだ!」)。その場にいた私は「本当か?」と思ったが、大使があまりにも自信に満ちた表情で話をするので、その場は「戦争には踏み切らないのだろう」との思いを無理やり心に収めた。

だが24日正午すぎ、複数のメディアはロシアがウクライナに軍事行動を起こしたと報じ、大使の言葉は単なる「願い」でしかなかったことが証明された。プーチンは「東部ドンバス地方での軍事作戦は、ウクライナ政権によって虐げられた人々を保護することが目的」と言ったが、無意味な言い訳にしか聞こえない。これはプーチンによる排他主義と民族主義が基礎になった歪んだ思想が具現化した行動であって、決して許してはいけない。

プーチンは以前、「ウクライナは国ではなく、ロシア人とウクライナ人は一つの民族である」ということを述べていたが、その偏った思想が今回、軍事行動で表出したことになる。ウクライナは第二次世界大戦後、ソ連に合併されはしたが、ソ連が1991年に崩壊してからは独立国として存在していた。

今回の軍事行動でのプーチンの本当の狙いは、ヨーロッパの再編成とアメリカを同地域から追い出すことの2点なのだろうと考えている。(敬称略)

ウクライナ侵攻はあるのか

今朝、日本外国特派員協会のワークルームで仕事をしていると、ヨーロッパ出身の記者が私のデスクにやってきて、ウクライナ情勢の話をはじめた。最近は、記者が集まればすぐにウクライナの話になる。いまは大手メディアの報道だけでなく、ネットニュースや個人が運営するサイトでも信憑性のある報道があるので、情報は溢れんばかりである。その記者は、以前から戦争にはならないとの見方をしており、今朝も意見は変わっていなかった。

「プーチンが本当に戦争をするつもりなら、すでに戦争をしかけていたはずだ。なぜここまで待つ必要があるんだ。もう2月中旬だ。多くのメディアはすぐにでも戦争が始まるかのような報道をしているが、チャンチャラおかしい」

そう言ったあとにヒト呼吸おいて、こう言った。

「ゼレンスキーもプーチンも、テーブルの下ですでに話をまとめているはずだ。その話は表には出てこないが、国のトップはこれからどうするかをすでに決めている。それが国際政治というものだ。誰が何をゲットして、何を失うかは前もって決まっている」

国際政治を数十年も取材している記者らしい、自信に満ちた口調だった。それだけに言説には説得力があるが、「もしロシアが侵攻したらどうする」と私が問うと、「まあその時はその時だな」と平然と答えている。

戦争になれば得をする(利益を得る)者がいるから戦争をしかけるわけで、大多数の市民が戦争の犠牲者になるという事実は人類がはじまってから変わっていない。

「これは地政学的なゲームだ!」

2月2日午前11時半、東京丸の内にある外国特派員協会に現れたミハイル・ガルージン駐日ロシア大使。

記者会見でのテーマはもちろんウクライナ情勢である。ロシア側の見解を直接、ロシア人から聞いておくことは重要である。1時間の予定だった記者会見は30分も延長して行われた。

大使であるので、現在のロシアの政治的立場を擁護し、危機的になりつつあるウクライナ情勢は「米国とNATOによって生みだされている」と語気を強め、米国非難を繰り返した。

さらに米国については「自分なりの外交政策を推し進めているだけ。本当の意味での外交というものを忘れている。相手(ロシア)を威嚇し、制裁をちらつかせている」と米国を責めた。そして「これは外交とは言えない」とまで言った。

さらに何度か繰り返したフレーズは「ロシア側から戦争をしかけることはない」という言葉だった。外交上、敬意をもって相手国と接しなければいけないとも述べ、それを米国に伝えたいと口にした。

ここに見られる態度は「悪いのはオマエで、自分たちは悪くない」というものである。それであれば、なぜ10万人規模のロシア軍をウクライナ国境付近に集結させているのか。

「10万人という数字が報道されているが、ロシア側から言ったことはない」

米国やNATOが常に正しいわけではないが、ロシア側にも自省が必要であり、「ロシア側から戦争をしかけることはない」という言葉が本当であることを願いたい。