ロシア疑惑(18):トランプ潔白

ほぼ2年間待ち続けたマラー報告書の結果は、「トランプ潔白」で終わった。

トランプがロシア政府と共謀して2016年の大統領選に不正を行った証拠はなかったと結論づけたのだ。全文は公開されていないが(たぶん今後もされない)、バー司法長官が連邦上下両院の司法委員会委員長に送った4頁の概要には、トランプとロシアとの共謀を裏付ける証拠は見つからなかったとはっきりと書かれている。

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入手して読むと、マラーは19人の弁護士を雇い、2800通以上の召喚状と500通以上の捜索令状をだして徹底的に捜査を行ったという。その過程でトランプの周囲にいた人間やロシア人など30数名が起訴されたが、トランプが共謀をはたらいた証拠は見つけられなかったというのだ。

ただ司法妨害を行った可能性はあると述べられている。だが、この点については今後広がりがあるとは思えない。ロシア疑惑はいちおう幕がおりたと考えて差し支えない。

最終報告書が出たあと、関係者の起訴ももうない。昨年5月17日の当欄「ロシア疑惑(9)」で記したように、マラーは昨春の時点で、すでにトランプの起訴がないことをトランプ側に告げている。

民主党議員や大統領候補たちは報告書の全文公開をもとめて食い下がっているが、早く幕引きをおこなって次の段階に進んだほうがいいだろう。トランプを調子づかせるだけである。(敬称略)

ロシア疑惑(17):マラー報告書提出

待ちに待ったマラー特別検察官の報告書がバー司法長官に提出された。

報告書の提出に期限がなかったとはいえ、昨年の秋に出されると言われていたものが、昨年末に、年明けすぐに、2月末にと次々に変わってきた。そして米時間3月22日(金)午後にようやくバー司法長官に提出された。

全面公開はないと最初から言われていたので、内容をすべて読めるわけではないが、要点はすぐにでも公表されるだろう。最大の関心事は1点。トランプが2016年の選挙でロシア政府と共謀して不正を働いたかどうかである。

すでに下院議長のペロシは今月、トランプを弾劾しないとの態度を表明したが、トランプが本当にシロであるかは別問題である。報告書の中に新たな事実やトランプの不正行為を証明できる内容が含まれているのか、ロシア疑惑の最終章の幕開けである。(敬称略)

ロシア疑惑(16):消えたトランプ弾劾

米連邦下院議長のナンシー・ペロシは11日、「ワシントンポスト・マガジン」とのインタビューで、トランプを弾劾することはしないと発言した。

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Photo from Twitter

「弾劾を支持しません。これまで私はメディアに対し、弾劾についての意思表示をしてこなかったので、『弾劾を支持せず』というのはニュースですよね。弾劾は国家を分断します。やむにやまれぬ事情があり、圧倒的なまでに超党派で弾劾を推し進められない限り、すべきではないと考えます」

マラー特別検察官がいまロシア疑惑の報告書を作成しており、近々に司法長官に提出されるはずである。そのタイミングを見計らうようにして、ペロシはトランプの弾劾を否定してみせた。

下院で過半数を握る民主党のトップであるペロシが弾劾を否定したことで、「トランプ弾劾」は事実上なくなった。

特別検察官が作成する報告書というのは、本来下院の司法委員会に提出されるものだった。同委員会が大統領の弾劾手続きを進めるための資料であり証拠だったのだ。ところが今回、報告書は司法長官に渡される。

トランプがロシア疑惑で違法行為をしていたとしても、お咎めなしということになる可能性が高まった。(敬称略)

ゴーンは本当に罪を犯したのか(2)

カルロス・ゴーンの保釈が決まった。1月9日に日本外国特派員協会で前弁護士の大鶴基成が「初公判まで勾留されるだろう」と述べた予想は外れた(ゴーンは本当に罪を犯したのか)。

それだけ新しく弁護を引き受けた弘中惇一郎の裁判所への攻めが際立ったということだろう。検察側としてはメンツを潰されたことになり、公判では慎重かつ大胆に議論を展開して有罪に持ち込もうとするはずだ。

保釈がこれだけ大きなニュースになるのは、誰も保釈を予想していなかったからである。特派員協会にいるヨーロッパ人の記者たちも本国に記事を送るのに大忙しで、まるで無罪を勝ち取ったかのような勢いを感じる。

だがゴーンは依然として起訴されたままで、状況が大きくかわるわけではない。今後数日はゴーンの保釈後の生活にメディアの関心がむくだろうが、注視すべきは公判での検察側と弁護側の議論で、私はいまでも有罪になる可能性が極めて高いとみている。(敬称略)

カダフィの呪縛

ベトナム、ハノイでの米朝首脳会談が28日、決裂した。理由はトランプが北朝鮮の「完全な非核化」を見据えて会談に臨んでいる一方、金正恩は「限定的な非核化」しか念頭になかったという点に尽きるかと思う。

その上で金正恩は経済制裁の解除を求めてきたため、何も合意せずに席をたったということである。

昨日午前中の顔合わせでは、両首脳の表情は悪くなかったし非核化に向けてのプロセスを段階的に踏むようにも思われた。だが、会談決裂というニュースを聴いて、私は金正恩が「カダフィの呪縛」から抜けだせていないと感じた。

どういうことかというと、2011年に殺害されたリビアのカダフィ大佐の二の舞になりたくないとの思いがいまだに強いということだ。

2003年、カダフィは核放棄を宣言して査察団を受け容れる。06年にはアメリカとの国交正常化も達成するが、ジャスミン革命の影響から、リビアには民主化の波が押し寄せて独裁体制が崩れてカダフィ体制は終わるのだ。

リビアや北朝鮮のような小国は核兵器を手放した時点でアメリカのような大国に飲み込まれ、体制転覆の運命に晒されるということだ。この思いは金正恩の父親も抱いていたはずで、こうした点から北朝鮮は今後も核兵器を手放す可能性は極めて低いと言わざるをえない。CIAをはじめとするアメリカの情報機関が分析してきた通りである。

金正恩は昨年6月12日、トランプと交わした合意文書に最初から従う意思がなかったということである。文書には4つの合意内容が記されており、3番目に「完全な非核化」という言葉がある。金正恩も署名したわけだから、最初からウソだったということになる。

アメリカはあくまで完全な非核化を目指しているため、今後両国がどういう姿勢で臨むのか、いまはまだ曖昧なままである。(敬称略)

2.18.19ワイドスクランブル

2月28日のテレ朝『ワイドスクランブル』(友人M氏撮影)