タイフーン・ファクサイ

今朝、関東地方から太平洋に抜けていった台風15号。英語ではファクサイ(Faxai)という女性の名前がついていた。ご存知の方も多いと思うが、台風もハリケーンも男性の名前と女性の名前が交互に英語でつけられる。被害をもたらす嵐であっても、人の名前がついていることで、どことなく愛着がわいたりする。

ただ日本列島に近づく前から非常に強い台風で、雨量も多いと言われていたので首都圏を中心に、大きな被害が心配された。だが、大打撃と言えるほどの損害はなかった。何よりである。

私がジャーナリストとして独立して2年目の1992年、フロリダ州をハリケーン・アンドリューという大型ハリケーンが襲った。私はすぐに現地に向かってレンタカーで被災地を取材した。

ハリケーンが通過していったところが帯状の被害を受けていた。ショックだった。というのも、中心部分のかなり広い範囲の帯部分に建っていた家屋が全半壊していたからだ。なぎ倒されたという言葉が適語だった。

風は瞬間最大風速80メートルに達しており、帯部分の家屋は根こそぎやられたという印象だった。全半壊戸数は18万。多くの住民に避難命令がでていたので逃げたが、それでも65人の方が亡くなった。

戦場を取材したことはなかったが、空爆を受けた跡はこうなるのかと思えるほどの惨状に思えた。東京があのレベルの嵐に襲われたらと思うと、いてもたってもいられない。

グリーンランド not for sale

トランプらしい話がまたメディアを騒がせている。今度は「グリーンランドを買いたい」のだという。

9月初旬にグリーンランドの主権国であるデンマークを訪問する予定だったので、その前に購入の意向を表して布石を打っておこうと思ったのだろう。補佐官数人に購入の可能性を訊いている。

補佐官がトランプにどう返答したかわからないが、たぶん不可能ではないと言ったのだろう。それだからこそ過去数日間、トランプは購入に前向きな意向をホワイトハウスの記者たちに伝えていた。

だが、デンマークのフレデリクセン首相がグリーンランドを売るつもりはないと突っぱねた。当たり前である。100年前ならまだしも、21世紀になって、ほぼ世界中の国土がどこかの国に所有されているいま、新たな購入は極めて困難だ。

実は国際法上、国家間での土地の売買は可能である。しかもアメリカの大統領がグリーンランドに触手を伸ばしたのは今回が初めてではない。トルーマン大統領も購入する意向をもっていた。

トランプも本気だったはずだ。いい悪いは別にして、こうした発想は日本の政治家からはなかなかでてこない。発想が大きすぎる。節度がある良識家の日本人は、「グリーンランドには人が住んでいるんだろう。いくら天然資源が豊富でも、ムチャクチャな発想だ」と片づける。

実現の可能性はほとんどないし、トランプの横暴さが改めて示された例ではあるが、不動産の世界でなぜトップに駆け上がることができたのかを少しばかり物語る話ではある。(敬称略)

 

greenlandtrump8.21.19

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香港デモ:民主主義の危機

香港でのデモが続いている。いまのところ終わりが見えない。

事態は複雑化しているかに見えるが、基本的対立は民主主義対共産主義である。上からの決まり事を押しつけてくる共産主義と、香港市民が享受してきた民主主義の対立である。

香港は1997年にイギリスから中国に返還されたが、「一国二制度」を維持して北京の共産党政権から距離をおいてきた。だが今回のデモの発端である「逃亡犯条例」改正案は、北京の共産主義が香港の民主主義を脅かすことにつながるため、香港市民が蜂起したわけだ。

同改正案は香港で検挙した容疑者を中国本土に引き渡せるようにする内容で、いかにも北京政府がやりそうなことである。少しずつ香港を共産圏に取り込んでいくという思惑の一端であるかにみえる。

安倍もトランプも習近平に配慮して、はっきりと北京を攻撃しない。日米は民主主義国の代表のような顔をしながら、香港を積極的に支持しないのだ。これは民主主義よりも共産主義をサポートすることにつながる。

安倍・トランプが香港を支持すると、習近平から「国内干渉だ」と言われて北京政府との関係が悪化するため、消極的な態度でいると思われる。香港の立場を支持しているのは一部の欧米メディアやアメリカ連邦議会議員などである。連邦下院外交委員会は超党派で香港市民を支持する声明を発表したほか、香港の自治擁護の法案を提出している。

トランプは16日のツイッターで「中国の習主席のことはよく知っている。すばらしい指導者だし、ビジネスをする上でも優れた人物だ。香港の今回の問題でも早急に、人道的に解決してくれるはずだ」と述べて、習批判はしていない。

もし香港市民たちが黙らされてしまうことになれば、それは基本的人権を奪われるということであり、世界的にみても民主主義の危機と言っていい。(敬称略)

やる気ですか、大統領?

3日前の当ブログで、アメリカがいまイランとの交戦に向けていくつもの布石を打っているという記事をご紹介した(イラン攻撃へ準備整えた米国、一触即発の危機)。

アメリカ時間18日、いよいよという流れで米軍の強襲揚陸艦「USSボクサー」がホルムズ海峡でイランのドローンを撃墜し、両国の緊張がより高まっている。6月20日にイランがアメリカのドローンを撃墜したので、「お返し」という動きでもある。

ベトナム戦争の契機となったトンキン湾事件では、連邦議会も圧倒的多数でベトナム戦争介入を支持した。後年になってアメリカ側が仕組んだ事件だったことが判明するが、時すでに遅しで、ジョンソン政権は長期におよぶベトナム戦争に突入してしまう。

仮にイランと戦争になると、長期戦になることが予想されるので、アメリカ・イラン両国だけでなく関係国にとってマイナス面しか頭に浮かばない。

ただ状況を冷静に眺めると、このまますぐに戦争に行くとは思えない。トランプはツイッターで「ボクサーはイランのドローンに防衛行動をとった」と記しただけで、すぐに交戦にいたる流れではない。むしろ、いまの時点で行動を自重することが肝心で、イランなどすぐに壊滅できるなどといった誤認をトランプが信じて過激な軍事行動にでないことを切に望む。

いくらトランプが暴君であっても、ペンタゴンの将軍たちが「イランはイラクのようにはいかない」という事実を伝え、間違った行動をトランプに起こさせないようにしなくてはいけない。ペンタゴンだけでなく、直接電話で話ができる安倍がこういう時にトランプに箴言すべきである。(敬称略)

トランプ来日に思う

トランプが来日し、日本のテレビや新聞は大騒ぎである。国技館では升席を外して特別席を設置する破格の扱いだ。

過去何十年と続いてきたアメリカ優遇の姿勢が、いまだに日本の隅々にまで染みわたっているかのようですらある。それは特に日本の政財界トップに顕著にみられることで、「アメリカには逆らえない」という思いが底流としてあるからなのだろう。

トランプ来日直前、経団連会長の中西宏明は「トラの尾を踏まないよう、対応策をしっかりとらないといけない」と発言した。21世紀、いや令和の時代になってもいまだに「トラの尾を踏まないように」といった消極的な発言をアメリカに使っている。

それほどアメリカが怖いのかと思う。トランプに張り手を食らわせることは決してしないのだ。理念よりも実利を取る政策はほとんど揺るぎがないと言えるほどである。

突っ張ることで制裁関税を課され、巨額の損失を被るよりはマシとの考え方があることは分かる。だが、一国家が国益を追求し、時に理念を押し通すことも必要だ。

いつかそんな日は来るのだろうか。(敬称略)