もう始まっている?第二次朝鮮戦争

「ドイツではもう朝鮮戦争が始まっていることになっているよ」

2日午後、友人のドイツ人記者は顔を合わせるなり、そう言って笑った。

「北朝鮮から漏れ伝わる情報が、メディアを先走らせる結果になってる。笑ってしまうよね」

勇み足が得意な日本の週刊誌だけではないのだ。どこの国のメディアも、特に見出しについては読者の目を引くために過激になっている。

戦争が勃発する可能性は低いと読むが、ないことはない。その時、どのメディアが最初に開戦を報道するのかが、業界での競争になっている。

馬鹿げた争いである。仮に始まったとしても、その報道タイミングは数分か数十分の違いだけである。そこに価値を置くこと事態、意味がない。

それよりも金日恩が何をしようとしているのかを正確に理解することが大切だ。アメリカの政府高官や分析官、シンクタンクの研究者がさまざまなルートを使って真意を探ろうとしているが、わかっていない。

金日恩はまだ若く、何をするのか読めないという人が多い。過激な発言をしているだけで、戦争を始めたら敗北が決定的なのは北朝鮮であることを理解しているとの期待はある。

ただ憶測の域を出ていない。正確に把握している人は西側にはいない。

日本のメディアに登場する人も、その言動はすべて憶測である。それをあらかじめ断るべきである。

なぜ金正恩の真意を読めないのか。近年、誰一人として金正恩と会談したりインタビューした西側の人間がいないこと。そして北朝鮮政府内にスパイを送り込めていないことが挙げられる。少なくともヒューミント(人による諜報活動)は機能していない。

本当に第二次朝鮮戦争ということになると、2年前の3月11日どころの騒ぎではなくなる。(敬称略)

核心は闇のなか

北朝鮮が12日午前、長距離ミサイルを発射した。

新聞やテレビは発射の意図と背景を必死に説明しようとしている。専門家によって解釈がそれぞれ違うので、誰も北朝鮮側の真意を言い当てていないようにも思える。

昨年4月にピョンヤンに出向いて気づいたのは、あの国は労働党幹部から一般国民にいたるまで、今年を「強盛大国」の完成年として軍事的にも経済的にも強国になるために一致団結していた点だ。

「強盛大国」という言葉が使われ始めたのは1990年代の後半で、特に過去5年ほどは今年が金日成の生誕100周年であることもあり、目標期限としてきた。いまは継続される方向にある。

現地に行って驚かされたのは、いまだに金日成があの国家では「神」であり、息子の金正日は「神の子」、孫である金正恩はまだ「坊や」という位置づけだったことだ。

その神の生誕100周年と神の子の1周忌に合わせ、ミサイルの打ち上げに成功して国民を鼓舞することが今回のミサイル発射の最大の動機だったのではないか。特に金正日の遺訓であるミサイル打ち上げを貫いたということがあの国にとっては意義がある。

国連安保理の制裁や日米からの警告などは、北朝鮮にとってはまったくの逆効果であることをそろそろ学ばないといけない。

儒教思想の国家にとって、「外のモノは邪悪で内のモノは正義」という見方は確固としたまま何十年も動くことがない。さらにメンツをたてる文化は日本以上で、今回の成功で「坊や」の顔もたてることもできた。

外圧などに決して屈してはいけないと考えることで、あの国はインターネットの時代にあって、ますます唯我独尊の境地に入りこんでいる。

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ピョンヤン市内の交差点(昨年4月)

北朝鮮の花火

アメリカ連邦上院外交委員会の東アジア太平洋小委員長のジム・ウェブが5日午後、東京の日本外国特派員協会で記者会見を行った。

                    

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「北朝鮮がICBM(大陸間弾道ミサイル)を発射した場合、明らかに国連安保理決議に違反する行為だ。ただ、北朝鮮政府は透明性というものをまったく持たないので、交渉を開始することすらできない。しかも彼らがいったい何を考えているかさえも探れない状態が続いている」

公の席ではほとんど諦めの境地といえる発言である。実際に、アメリカをはじめとする周辺国の韓国や日本がミサイル発射を止めることはできないだろう。国連決議など過去何十年も、特定国の横暴な行為を阻止する効力をほとんど発揮できていない。

イスラエルがイランの核兵器に脅威をいだき、先制攻撃をする可能性を示唆しているが、日本は北朝鮮にその素振りどころか、意気込みさえも見せない。もちろん先制攻撃をしたあとの因果関係を考慮すると、攻撃などしかけない方がいいのだが、精神性という点において、いまの日本人には北朝鮮と戦うオプションは持たない。

仮にミサイル攻撃された場合、国民はどうすべきかの議論すら起こらない。来週にもミサイル発射となる可能性が高いが、傍観者のままだ。

私は上院議員に対し、アメリカの北朝鮮への諜報活動について訊いた。「本当は公表できない内容を抱えているのではないか」という質問だ。

「いまの北朝鮮からは本当に情報がとれない。オペイク(Opaque:くすんでる)!」

昨春、首都ピョンヤンに滞在したが、そのくすんだ部分の中心部が見えたわけでもない。それほど厚いベールに覆われてる。

わかっているのは4月15日が故金日成の生誕100周年で、軍事、経済、政治を強化する「強盛大国」を目指しているということだけだ。あの国に足を踏み入れれば、国民が信奉しているのは金正日でも金正恩でもなく、いまでも金日成であることが分かる。その延長線上にICBMの発射があるのだ。

そう考えると、ミサイル発射は式典を祝うための大がかりな花火というレベルかもしれない。(敬称略)

北朝鮮の素顔

19日午後、金正日の死のニュースを耳にした時、最初に脳裏に浮かんだのが「暗殺か?」であった。

死去の知らせと同時に心筋梗塞という言葉が発表されていたが、まず他殺を疑った。だが、軍事クーデターによる暗殺であれば、軍部による政権掌握が行われなくてはいけない。それは対外的にむしろ公言すべきことで隠す必要はない。また政権内部の人間による暗殺であったとしても、秘密裏に処理する必要性は乏しい。

問題は今後の政権委譲である。3男の金正恩が後継者として指導者になる流れはすでにできているが、現在、人民軍内部の金正恩に対する信頼度は極端に低い。それは今春、平壌周辺から黄海、板門店にいたる旅をした時に耳にした労働党関係者の本音からもわかる。(平壌壌から板門店まで、対向車はわずか10台)

死亡発表後1日で、世界中に北朝鮮の専門家がこんなに大勢いたのかと思えるほど、メディアにさまざまな名前が登場する。いろいろ読むが、「ほぼ確実にこうなる」と断定できる人はいない。

それは他国政府でさえも北朝鮮内部に諜報員(スパイ)を擁していないからだ。アメリカでさえも、金政権にスパイは送り込めていないだろう。イラクでもそうだった。諜報活動はそれほど難しい。

半年前に平壌に行って驚いたのは、金正日より父親の金日成のほうが100倍も慕われているということだった。100倍というのは個人的な印象である。ただ金日成は北朝鮮国民にとって「ほとんど神」であるが、息子の金正日は「将軍さま」、金正恩にいたっては「ハナタレ小僧」という扱いだろうかと思う。

                                  

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                       平壌市内にて

「金正恩はどういう評価なんですか」

「ゼンゼン、ゼンゼンだめ。まだ若いから」

平壌市民も酒が入れば本音を漏らすのである。

昨日からのニュース映像で、大げさとも思えるほど嘆き悲しむ北朝鮮国民の姿が映し出されている。韓国にはプロの「泣き屋」がいて、葬式の時にわざと大げさに泣いてその場を演出することがよくある。北朝鮮でも同じなのだろうとの思いでテレビ映像を見ると、思わず笑みがこぼれてしまう。

いずれにしても、かの国の究極的な課題はこれからどうやって民主国家への道を歩むかである。

北朝鮮のイマを切り取る

平壌から板門店まで、対向車はわずか10台 堀田佳男・北朝鮮をゆく~その3 (日本ビジネスプレス)

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/12398

                           

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平壌市内。この日は日曜で、多くの家族がレストランで食事をする姿が目立った。