人間は数百年生きられるようになるのか

このところ新型コロナウイルスをはじめ、暗いニュースが社会を席捲しているかにみえる。何か明るいニュースがないだろうかと思ってネットニュースを読んでいると、ハッとさせられる記事にであった。

アマゾンの創業者ジェフ・ベゾス氏が出資者となって、「人間は数百年生きることができるのか」という根源的なテーマを科学的に追及していく企業をスタートさせたというのだ。実は昨年、「アルトス・ラボ」というアンチエイジングを研究する企業をベゾス氏が中心になって発足させていたのだが、今週になって最高経営責任者(CEO)に臨床科学者で医薬品開発者のハル・バロン氏を採用したことで、実質的な研究を始めていくことになった。

記事中には「何百年も病気と無縁で生きるための秘訣を探る」ために、世界のトップクラスの科学者を雇っているとある。人間があらゆる病から逃れ、画期的な細胞再生プログラムの技術を発見することを目指すという。冗談なのではなく、ノーベル賞受賞者が参加したプロジェクトであり企業であるため、当事者たちは真剣である。

米カリフォルニア州サンディエゴ市にあるソーク研究所にいる生物学者フアン・カルロス・イズピスア・ベルモンテ教授をはじめ、スター級の人材がそろっている。同教授は「人間の寿命は少なくとも50年は延びる」と予想している研究者で、決して夢物語ではないという。

教授は2012年にノーベル賞を受賞した京都大学の山中伸弥教授の胚性幹細胞技術をマウスに適用し、2016年に年齢逆転の兆しを確認している。同教授は再プログラミング技術を「生命の仙薬」の可能性と名づけている。同社には2020年ノーベル化学賞を受賞したジェニファー・ダウドナ教授も在籍している。

本当に多くの人が若い身体を維持したまま100年以上生きられるようになったら、どれほど素晴らしいだろうか。

グーグル性健忘症

昨年11月に新潮新書から出された『スマホ脳』を読んでいると、最近耳にするようになった「グーグル性健忘症」という言葉がでてきた。

この意味は、スマホを含めたデジタル機器を多用するようになって、「スマホを使えばすぐに分かるから」という理由から、自分からすすんで多くのことを覚えなくなる現象をいう。これは私にとっては「ひざポン」なのである。

加齢による記憶力の低下もあるが、以前よりも確実にグーグルに頼る機会が増えたことで、積極的にモノゴトを覚えることが減った。それにより「あああ、また忘れた」という思いを抱くことが日々の中で増えた。

『スマホ脳』の著者、アンデシュ・ハンセン氏は本の中で、こう記している。

「記憶するためには、集中しなければならない。そして次の段階で、情報を作業記憶に入れる。そこで初めて、脳は固定化によって長期記憶を作ることができる。ただし、インスタグラムやチャット、ツイート、メール、ニュース速報、フェイスブックを次々にチェックして、間断なく脳に印象を与え続けると、情報が記憶にかわるこのプロセスを妨げることになる」

つまり、脳は自分で覚えようとしなくなるというのだ。脳も学習して、スマホを使えばわかるからと、記憶に残そうとしなくなる。つまり近道を選ぶというのだ。ハンセン氏は書いている。

「本当の意味で何かを深く学ぶためには、集中と熟考の両方が求められる。素早いクリックに溢れた世界では、それが忘れ去られている危険性が高い」

この指摘は的を得ている。スマホが決して悪いというわけではなく、紙の本も読み、ゆっくりしたペースでモノを考える時間も作るべきということだ。やはり本はいつも手元に置いておきたいと思う。