堀田佳男 Profile
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メタ情報
カテゴリー: タクシーの中へ ― 2016年3月27日
タクシーの中へ(7)

しばらくご無沙汰していた「タクシーの中へ」シリーズ。

相変わらずタクシーにはよく乗っているが、最近、驚いてひっくり返るような話を運転手さんから聴けていない。饒舌な運転手さんが以前よりも減ったためかどうかはわからない。

今年はアメリカ大統領選がらみで「季節労働者(季節労働者、継続中です)」になっているので、いまだにテレビ局やラジオ局に出入りしている。テレビ番組にゲスト出演した時は、黒塗りの車が自宅と局を往復してくれるが、ラジオ局は基本的に車をだしてくれない。

ただ黒塗りのハイヤーでの移動を「日常だと思ってしまう」ことほど浅はかなことはないので、いくら回数が多くなっても電車にも乗るようにしている。

先日、日本テレビの運転手さんと長い時間、話をする機会があった。軽妙な語り口の方で、運転しながら興味深い話をしてくれた。

「私たちが送り迎えをするのは番組ゲストの先生や政治家、スポーツ選手がほとんどですね」

「芸能人の送迎はしないんですか?」

「ほとんどないです。彼らは事務所の車に乗っていますから。ジャニーズの有名タレントさんたちは1人1台じゃないですかね」

「それじゃあ、普通のタレントさんは」

「タレントさんによりますね。たとえば森〇中のお三方はいまでもタクシーですかね。黒塗りの車は出ないです。タクシーで帰っていただいていると思います」

テレビ局も人を見ているということなのだ。ギャラにしてもそうで、テレビ業界は歴然とした、あからさまな格差社会なのである。

カテゴリー: タクシーの中へ ― 2015年4月19日
タクシーの中へ(6)

相変わらずタクシーにたくさん乗っている。運転手さんと話もしている。

私が最近、切り出す話題は東京都内の道である。ナビは便利だが、プロのドライバーである以上、道を知らなくてはいけない。

「運転するようになってまだ半年です」と、30代と思えるドライバーが言った。「私は運転手になる前の10年ほど、ある会社の営業職として毎日都内を走っていたんです。だから道には自信がありました。でも運転手になって、自分があまりにも道を知らないことを思いしらされている毎日です」

それほど道を知るということは奥深いらしい。昨年、ハンドルを握ってちょうど50年間になると言った71歳の運転手さんが述懐していた。

「3区わかればいいですね。それ以上は無理」

50年間乗っても、たとえば世田谷区、渋谷区、杉並区の3区がせいぜいだという。あまりに少なすぎやしないか。東京は23区もある。

ただ、今週も運転歴30年のドライバーが「2区わかればいい」という発言をした。

彼らにとっての「わかる」というのは、小道から路地まですべてを走り尽くし、どこを通ったらどこに抜けるかを熟知しているということらしい。彼がつけ加えた。

「普段あまり走りなれていない板橋区を走っていて、新しく乗せたお客さんが、たとえば「隅田公園(東京都墨田区向島にある隅田川沿いの公園)」と言った時です、大変なのは。幹線道路を使えばナビを使わなくともいけますが、裏道を使った最短ルートでは難しい」

何ごとも奥が深いということである。

カテゴリー: タクシーの中へ ― 2014年11月7日
タクシーの中へ(5)

アメリカの中間選挙が終わり、少し落ち着いた。

共和党が連邦議会の上下両院で多数党になってもワシントンの政治のあり方に本質的な変化はない。

大企業が捻出する多額のカネによって民主・共和両党が動かされている構図は変わらないからだ。選挙でもより多くの資金を集めた方が有利で、今回も共和党が民主党より多額のカネをあつめていた。結果は最初から見えていた。

先日、BSのテレビ番組で中間選挙について話をする機会があった。テレビ局に向かう途中のタクシーのなかで運転手さんと話し込んだ。選挙の話ではない。

「アメリカのことはわからないです」

多くの方は他国の政治などには興味がない。それよりも運転手さんの話の方が面白い。テレビのバラエティー番組はタクシー運転手さんの裏話を特集したらいい。

「2日前に乗せた女性は一人でずっと歌ってました。『歌ってもいいですか』と訊くので、運転手としては『いやです』とは言えないんです」

女性は最初から察知していたはずだ。乗客がタクシーの座席についた瞬間から「柔らかい主従関係」ができあがっていることを。ドライバーはめったなことでは拒絶しない。かなりのわがままも受け入れてくれる。それが密室での暗黙の了解だ。「歌いたい」といえば、「どうぞ」としか言えない。

「それで、その人はうまかったんですか、歌?」

「お上手ならいいんですが、、、」。言いたいことはわかった。

困った話もしれくれた。先月下旬、午前2時頃の新宿2丁目。男性客を乗せた時だった。

「普通は後部座席に乗りますよね。でもその方は助手席に乗せてほしいというのです」

「一人だったんですか、その人は?」

「一人です。助手席のドアを開けろという。これは危ないなと思ったんです」

それでもお客の要求に応えるところが日本の運転手さんらしい。

「警戒しながら助手席に座ってもらったんですが、、、」

「だいじょうぶでした?」

「オネエだったんです」

「そっちで危なかった?」

「しばらくしてから私の太ももをさわり出して、、、いやあ困りものでした」

それでも大事にはいたらず、板橋のマンションまで送り届けたと言った。

密室だからこその緊張感と距離感がなんともたまらないのがタクシーの魅力である。

カテゴリー: タクシーの中へ ― 2014年6月10日
タクシーの中へ(4)

相変わらずタクシーにたくさん乗っている。運転手さんとよく話もしている。

消費税が上がるのにともなって、初乗り値段も710円から730円になった。

だが売上が上がったという運転手さんは1人もいない。同時に、客数が大きく減ったという話もきかない。つまり値上げ前と後ではほとんど変化がないのだ。

「値上げで売上があがったというのは思い過ごしですね。ゼーンゼン変わりません。ハイ」(有楽町から日本橋までの運転手さん)

20円だけの違いでタクシーから足が遠のく人はほとんどいないらしい。むしろ景気はよくなっていないというのが、運転手さんたちの共通した思いだ。

「アベノミクスなんて、お兄さん(ありがとうございます)、実感あります?ないでしょう。5月の売上なんて、去年の方がよかったくらいだもの」(江古田駅から実家までの運転手さん)

大企業の中には「景況感が改善されてきた」というところもある。だが、それは本当にごく一部に過ぎない。なにしろ大企業というのは日本全国に約380万社の企業があるなか、たった0.3%に過ぎないのだ。

少し前、日本経済新聞の1面に「企業の景況感が改善」という見出しが躍った。直後に日経の記者と会う機会があったので、「あれは大企業だけと書かなくてはダメ」と言ったら、何も反論しなかった。

失業者が路上にあふれているわけではないし、暴動が起きているわけでもない。だが日本経済という言葉ではなく、一般の生活者が本当に収入がふえたとか、活気がでてきたという言葉を自然に口にするようにならない限り、アベノミクスが本物とは言いがたい。

タクシーの中へ入れば、それが如実にわかる。

カテゴリー: タクシーの中へ ― 2014年3月21日
タクシーの中へ(3)

私は仕事だけでなく、プライベートでもさまざまな国へ出向く(世界の街角から)。

新しい土地に行くと3つのことをするようにしている。1つはマーケット(市場)に足を運ぶこと。2つめは富裕層と低所得者層の住宅街に足を運ぶこと。3つめがタクシーに乗ってドライバーと話をすることである。それによってその国の表情がずいぶん読み取れる。

英語を話さないドライバーも多いが、新しい国に降りたった時は気が張っていることが多いで、その所作に違いを見いだしやすい。それが国民性の違いとなって興味深い比較ができる。

国によっては(ドライバーによっては)、目的地までわざと遠回りをしたり、料金をよけいに請求したり、手品のようなマジックを使って料金を奪うことさえある。

自分ではかなり旅慣れていると思っているが、何度も騙されたことがある。ニューヨークでは、滞米20年後であっても不正に料金をとられたし、トルコやギリシャでも騙された。わかっていても「あらま、やられちゃった」だった。

その点、日本のタクシーの運転手さんで客を騙す人はほとんどみられない。日本語のできない外国人観光客を乗せた時でも同じである。むしろより親切に送り届ける人の方が多いだろう。中には遠回りをして料金を稼ぐ人もいるが、例外のはずだ。

先日、運転手さんに訊いてみた。日本では客を騙すようなドライバーはいないか、と。

「酔っ払った客に料金を踏み倒されたり、値切られることの方が多いですね」

なかなかつらい稼業なのである。