ありきたりの候補になりはじめたトランプ

米大統領選はいま、共和党ドナルド・トランプと民主党ヒラリー・クリントンが各党の代表候補に決まったことで、米メディアの関心は予備選より候補者本人に移っている。

その中で興味深いことがある。既存の候補と一線を画していたトランプが、「ありきたりの候補」になり始めているのだ。その兆候が選挙資金である(代表候補確定で“ありきたりの候補”になり始めたトランプ)。

「トランプの壁」に騙される哀れな米国人

共和党ドナルド・トランプ氏(以下トランプ)が11月の本選挙で勝ったとしたらーー。

トランプは日米同盟を再考して日本から米軍を撤退する選択肢をほのめかしている。さらに日韓両国の核兵器保有の可能性にも言及している。

しかしこれまでの日米関係を多角的に眺めると、トランプ政権が誕生したとしても日米関係が本質的に変化するとは考えにくい。

先日、フジテレビの朝の番組で同席した自民党の下村博文・前文科相は、「トランプが大統領になったとしても今話をしているようなことは起こらない。そんな簡単に変わらない」と政治家として経験を踏まえた考えを口にしていた(「トランプの壁」に騙される哀れな米国人 )。

人生最初の大統領選取材

1984年、ゲイリー・ハートという上院議員が大統領選に出馬していた。

彼はルックス的にはライバル候補だったモンデールよりも数段上で、支持率でも一時は民主党トップだった。日本の新聞は「いま戦えば勝つ」というタイトルを打ちさえした。モンデールというのは後に駐日大使になった、あのモンデールだ。

だがハートは不倫問題が表面化して、あっという間に支持率を落として姿を消してしまう。ハートの人気がまだ高かった時、首都ワシントンにあった彼の選挙事務所を訪れたことがある。

当時、読売新聞ワシントン支局の「坊や(助手)」をしていた私は、特派員のS氏とハートの選挙事務所に向かった。

私が住所を調べ、S氏が車を運転した。選挙事務所はワシントン市内の南東区という場所にあった。S氏は南東区であることに、「ヘエ?」という反応をした。ワシントン市内は大きく4区画に別れており、多くの主要な建物は北西区に位置するからだ。

南東区というのは治安がいい場所ではなく、ましてや大統領候補が選挙事務所を置くような地区ではない。目的地に着くと、S氏が言った。

「北西区の間違いじゃないの?」

というのも、着いた場所はポルノ映画館だったからだ。何度か番地を確認したが、やはりメモした住所だった。

「すみません。間違ったようです・・・」と言って映画館の2階を見ると、ゲイリー・ハートという名前の刻まれたポスターが窓ガラスに何枚も貼られていた。

ハートは選挙資金が乏しく、とにかく安い場所をということで、最終的にポルノ映画館の2階に落ち着いたようだった。普通の政治家なら資金がなくとも却下するところである。しかしハートは体裁を気にせず、ポルノ映画館を選挙事務所にしたのだ。

階段をあがっていくと、多くのスタッフがDVDの2倍速のような機敏さで仕事をしていた。湯気がたつような活気があった。それ以来、妙にハートが気になり、彼を応援するようになる。応援といっても何もできなかったが、大統領になってほしいと思っていた。

不倫問題が発覚したのは、それからすぐのことだった。

当時、私はまだ大学院生で、支局では助手としてお茶汲みや新聞の切り抜き、電話の対応をしていただけなので「大統領選を取材した」とは言えない。

自分で記事を書くために取材した大統領選は1992年からである。以来、今回で7回目。ポルノ映画館も入れれば8回目だ。

怖いモノ知らずの勢いは今よりもあったように思う。

Garyhart.5.9.16

1984年当時のゲイリー・ハート上院議員     By Famousfix.com

企業にまで広がるトランプ嫌い

ドナルド・トランプが事実上の共和党代表候補に決まったあと、トランプ嫌いが共和党内にアメーバのようにまん延している。

ブッシュ家の3人(父と長男、次男)は11月8日の本選挙では、トランプにもヒラリーにも投票しないとの意思を表した。2012年の共和党大統領候補ミット・ロムニーと下院議長ポール・ライアンは、7月18日から始まる共和党大会でトランプを支持しないと表明。党内の分断は眼にみえるかたちで広がっている。

トランプ嫌いの拡大はもちろん政治家だけではない。米大手企業コカコーラとマイクロソフトは今年、共和党大会には多額のお金をださないことにした。党大会というのは、大統領選の夏祭り的な位置づけで億円単位の予算が必要になる。

12年の共和党大会でコカコーラは66万ドル(約7000万円)を、マイクロソフトは150万ドル(約1億6000万円)を提供して大会を盛り上げた。だが今年は、コカコーラが7万5000ドル(約800万円)をだすだけだし、マイクロソフトにいたっては現金の代わりにIT機器を提供することにした。

ただ党大会まで2カ月以上もあるので、私のこれまでの経験からは、トランプ嫌いに回る一派がいる一方で、トランプ支持に回る人たちも増えて党大会は何事もなかったように無事に実施されると読む。

いまはヒラリーがトランプの個人攻撃をどうかわし、逆襲するかを待ち望んでいる。

いまだ季節労働者

アメリカ大統領選に合わせた季節労働者としての仕事がいまだに続いています(季節労働者、継続中です)。

月曜(2日)はAMラジオ・文化放送の『くにまるジャパン』で20分ほど話をしました(『くにまる「アメリカ大統領予備選」塾3』)。明日(5日)午前はテレビ朝日の『ワイドスクランブル』に出演して、やはり20分ほど大統領選について語ります。

ただトランプとヒラリーの2人の対決に決まったので、今後は出演回数も減るはずです。7月の党大会まで季節労働者としての仕事は少しお休みになるはず・・・。

イチゴ摘みの繁忙期が終わったので、いまは夏の桃の収穫まで「休んでいろ」という流れになりそうです。

それでも年頭からテレビとラジオを合わせて計30本。体は動くうちに動かそうと思っています。みなさま、よろしくお願い申し上げます。佳

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トランプの住居とオフィスが入るマンハッタンのトランプタワー正面