イマに乗る

「大変なことが起きていますね」

その一言で、こちらはすべてを察しなくてはいけない。

1時間前に起きたニュースであれば知らないこともあるが、同業者は知っていて当たり前という口調で電話をかけてくる。もちろん知らない場合は「何があったんですか?」と訊きかえすが、半日前のできごとを知らない時など、ニュースに携わる人間としては恥ずかしさが先にたつ。

今週も夜は同業者や政治家との酒席が続き、話題はイマに集中する。政治・経済問題、社会問題、芸能にまで話がおよぶ。

しかもすべての出来事を知っていて当然という「語り出し」がほとんどなので、こちらは常にニュースに目を這わせ、いつもアンテナを張り巡らせていなくてはいけない。

先日も、ある番組のディレクターから電話があり、アメリカ大統領選の話をしてほしいとの要請があった。ディレクターは「おじさんがすごいこと言っていますね」と振ってくる。

その一言だけで、こちらは誰がどういう発言をしたかをすぐに察しなくてはいけない。

それが当たり前と言えば当たり前で、「誰ですか」などと訊き返すことはジャーナリストとして「イマに乗れていない」ことを証明するようなものである。

ただ時々、本当に知らないことがある。

相手はわかっていて当然という態度で話を進めてくるので、その時は黙って聞いているしかない。電話が終わり、こちらは慌ててリサーチをする。

知らないことは決して恥ずかしいことではないが、ニュースを仕事にしている人間にとっては大いなる恥である。

またスマホを手にしたまま路上で赤面しないために、アンテナの受信感度は高めておくことにする。