タクシーの中へ(5)

アメリカの中間選挙が終わり、少し落ち着いた。

共和党が連邦議会の上下両院で多数党になってもワシントンの政治のあり方に本質的な変化はない。

大企業が捻出する多額のカネによって民主・共和両党が動かされている構図は変わらないからだ。選挙でもより多くの資金を集めた方が有利で、今回も共和党が民主党より多額のカネをあつめていた。結果は最初から見えていた。

先日、BSのテレビ番組で中間選挙について話をする機会があった。テレビ局に向かう途中のタクシーのなかで運転手さんと話し込んだ。選挙の話ではない。

「アメリカのことはわからないです」

多くの方は他国の政治などには興味がない。それよりも運転手さんの話の方が面白い。テレビのバラエティー番組はタクシー運転手さんの裏話を特集したらいい。

「2日前に乗せた女性は一人でずっと歌ってました。『歌ってもいいですか』と訊くので、運転手としては『いやです』とは言えないんです」

女性は最初から察知していたはずだ。乗客がタクシーの座席についた瞬間から「柔らかい主従関係」ができあがっていることを。ドライバーはめったなことでは拒絶しない。かなりのわがままも受け入れてくれる。それが密室での暗黙の了解だ。「歌いたい」といえば、「どうぞ」としか言えない。

「それで、その人はうまかったんですか、歌?」

「お上手ならいいんですが、、、」。言いたいことはわかった。

困った話もしれくれた。先月下旬、午前2時頃の新宿2丁目。男性客を乗せた時だった。

「普通は後部座席に乗りますよね。でもその方は助手席に乗せてほしいというのです」

「一人だったんですか、その人は?」

「一人です。助手席のドアを開けろという。これは危ないなと思ったんです」

それでもお客の要求に応えるところが日本の運転手さんらしい。

「警戒しながら助手席に座ってもらったんですが、、、」

「だいじょうぶでした?」

「オネエだったんです」

「そっちで危なかった?」

「しばらくしてから私の太ももをさわり出して、、、いやあ困りものでした」

それでも大事にはいたらず、板橋のマンションまで送り届けたと言った。

密室だからこその緊張感と距離感がなんともたまらないのがタクシーの魅力である。