人間を突き動かすもの

日本人の研究者3人がノーベル物理学賞を受賞した。明日の文学賞では村上春樹がスポットライトを浴びるかもしれない。

物理学賞に輝いた3氏だけでなく、村上春樹も長年、候補として名前が挙げられてきた。その他にも日本人で候補になっている人は数多い。

9月下旬、大手新聞社の科学部の記者から電話が入った。

「満屋先生が10月6日発表のノーベル医学・生理学賞を受賞するかもしれません。その時にはコメントを頂けますか」

「私でよければ喜んで」と告げた。

記者は数多くの候補名を事前に入手し、受賞後に書く記事を準備しているようだった。満屋先生というのは、拙著(『MITSUYA日本人医師満屋裕明―エイズ治療薬を発見した男』)で半生を描いた医学者だ。

1980年代半ば、アメリカの首都ワシントン郊外にある研究所で世界で初めてエイズウイルス(HIV)に効く薬を開発した人である。

90年代から満屋がノーベル賞の候補に挙げられているという話は耳にしていた。だが残念ながら、昨日(6日)のノーベル賞の発表時に満屋の名前はなかった。

実は今年の医学・生理学賞の候補として、世界中から283名の名前があがっていた。その中からさらに46名に絞られていた。

ただ、賞というのは視界の外から降ってくるサプライズであり、ノーベル賞を目指して研究している人はいない。というのも、それが日々の研究の動機にはならないからだ。活動のエネルギーはそこから去来するものではない。

もっと人間的である。というより情調的である。

今回物理学賞を受けたカリフォルニア大の中村修二は記者会見で、研究が持続できた理由を訊かれ、「怒り以外に何もない」と言った。奇しくも、イチローが昨年4000本安打を打った10日後、「屈辱によって支えられてきた」と述べたことに共通するものを感じる(屈辱に支えられている )。

人間を突き動かすものというのは意外にもそうした感情なのかもしれない。(敬称略)