あるレイプ事件から見えるもの

日本では時に、重要な事件が主要メディアで報道されないことがある。テレビも新聞も扱わない。

たとえば強姦事件(ここではレイプ事件という言葉を使う)などは、日本では被害者がほとんど表にでてこない。顔をださないばかりか実名を公表する人がすくない。日本文化の中にいれば「何故か」は誰もが思い当たるだろう。

今年7月に公表された統計では、なんとレイプされた女性の67.9%は「誰にも相談していない」というのだ。親族や友人にさえ言えない人が、警察に被害届けをだせるはずもない。

それだけではない。主要メディアは警察批判になる内容を報道しない。だが1人のオーストラリア人女性は果敢にそうした壁を打ち破ってきた。

キャサリン・ジェーン・フィッシャー。父親の仕事の都合で30年ほどまえに来日。以来、日本で暮らす。

2002年4月、事件は起きた。横須賀の米軍基地近くで米兵にレイプされたのだ。すぐに神奈川県警に通報。県警はレイプされたばかりのフィッシャーを12時間近くも拘束し、病院につれていくこともせず、現場に連れ戻して証拠写真を撮り、さらに長時間の取り調べをする。

これが通常の手続きであってはいけないことは社会通念をもつ方であれば容易に理解できるだろう。犯人のブローク・ディーンはすぐに拘束されるが、横浜地検は男を不起訴にする。米軍も軍法会議で扱わないことを決定。

犯人への憎しみもあるが、県警の不条理な扱いにフィッシャーは国家賠償請求の裁判を起こす。だが一審、二審ともに原告フィッシャーの敗訴。最高裁への上告も棄却され、県警への訴えは退けられた。

しかしディーンへの民事訴訟では勝訴する。だがディーンは米国へ逃走。

フィッシャーは諦めなかった。10年の歳月をかけて男が米ウィスコンシン州ミルウォーキー市にいることを突きとめ、同市の裁判所に民事訴訟での履行をもとめる裁判を起こし、昨年10月に勝訴判決を得た。

そして半生を本にして今年6月に出版(http://urx.nu/bSCL)。

いまフィッシャーは日本のレイプ被害者に声をあげるようにと説く。犯罪者をのさばらしてはいけないとの思いだ。それがどれほど大切なことか、多くの人が認識すべきである。(敬称略)

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日本外国特派員協会のイベント直後のフィッシャーさんと。11日夜。