抜け落ちた記憶

昨年11月末、中学の同期会が地元の中野サンプラザで行われた。

私は幹事の1人だったので、当日は受付に座って出席者の対応をしていた。そこにK君が現れた。

中学卒業以来、一度も顔を合わせていない人である。だが、K君であることはすぐに判別できた。

彼とは中学1年時のクラスが同じで、大変気が合った仲だった。休み時間はよく2人で話をし、行動も共にした。その彼が、私の顔を見るなり驚くべきことを口にした。

「堀田君、バレンタインデーのこと、覚えている?」

それは間違いなく中学1年時の2月14日を意味していた。というのも、2年と3年ではクラスが別だったので、1年生以外は考えにくい。

「いやあ、なんのことだろう」

当時から女子が男子にチョコレートを贈る習慣はあった。だが、まだ義理チョコはなかった。チョコレートを贈るというのは、それはほとんど本命の彼に告白するということなのだ。

私は自分がチョコレートをいくつもらったのだろうかと考えたが、思い出せない。

K君はこう告げたのである。

実は、私が彼の自宅までチョコレートを手渡しにいったのだという。それも女子に頼まれたわけではなく、私が自分のチョコレートを彼に贈ったのだ。

衝撃的なことだった。欧米であれば、男子が女子に思いを伝えることは一般的だが、日本では当時も女子から男子の流れが当たり前である。

驚嘆したのは、私が友人のK君にチョコを渡したという点と同時に、その事実をすっかり記憶から消し去っていたことだった。

忘れられないほどの羞恥の対象となる出来事でもないし、自慢できるほどのことでもないので、記憶の中に残らなかったのか。いまだに見当がつかない。

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