2006年秋、まだアメリカの首都ワシントンにいた時のことだ。ある日本人女性から電話がかかってきた。
ドキュメンタリー映画の制作を手がけていた女性は、これからはフリーランスのカメラマン(スチールの写真家)になりたいという。すでに結婚し、息子2人を連れての留学で、修士号取得後の進路がフリーランスのカメラマンなのだがどうだろうかという話だった。
多くの人は「止めておけ」というだろう。経済的に不安定だからだ。
だが会ってすぐに彼女が本気であることに気づいた。だから「やる気になればできます。ぜひやってください」とフリーランスの道を勧めた。
私自身がフリーランスで「飯が喰えていた」こともあるが、知り合いの日本人カメラマンもフリーランスで家族を養っている人が何人もいた。できないことはない。
それから5年以上が経ち、加藤里美は精力的に世界中を飛び歩いていた。昨年、5年ぶりにパキスタンに渡り、再び現地でイマという瞬間を切りとってきた。その成果がいま有楽町の日本外国特派員協会で写真展と結実している。
「もう組織では働けないです。フリーでいられる精神的な自由さは何ものにも代えがたい」
自信に満ちあふれたカメラマンがそこにいた。(敬称略)
加藤里美写真展は8月31日まで。