ある男の勝利

今月22日、ラーム・エマニュエルという男が新しいシカゴ市長になった。

   

             

最初に彼と会ったのは1992年のことである。クリントンの大統領選挙で選挙資金を集めていた。ぎょろっとした目が印象的で、お世辞にも親しみやすい男ではなかった。

当時、クリントンの選挙事務所にはジェームズ・カービルやジョージ・ステファノプロスといった、後に名を馳せた参謀がいたが、エマニュエルがまさか今のような「大物」になるとは思わなかった。

クリントンが大統領になったあと、ホワイトハウスに入って補佐官を務めたが、国民皆保険では失敗したし、際立った有能さは感じられなかった。政権時代に何度か顔を会わせても相変わらずで、98年にホワイトハウスを去っ時には「これで終わり」だと思っていた。

ところが2003年に下院議員として政治家デビューする。そしてオバマが大統領になると主席補佐官の座につくのである。極めて上昇志向の強い男である。 

選挙参謀というのは候補を支えることに尽力する者と「いずれは俺も」と狙っているタイプに分かれるが、彼が後者であることに当時はまったく気づかなかった。そしてこれからはシカゴ市長である。

昨年10月、私は彼を取材するためシカゴに飛んだ。トム・ダートという男がエマニュエルのライバルとして名前が挙がっていた。ダートは選挙のプロ、ジョー・トリピという男を雇って出馬準備を進めていたが、結局選挙には出なかった。エマニュエルはオバマの支援もあって、得票率55%で圧勝する。

80年代から選挙の現場にいた男の究極的なテクニックは選挙資金をいかに集めるかにある。クリントンの時はそれが功を奏した。そして自身の市長選では約990万ドルを集金する。日本円でほぼ8億円である。市長選としては破格の集金額である。2位につけた候補のほぼ倍だ。

将来、この男が大統領選の候補として名前があがっても不思議ではない。私はその器ではないと思っているが、少なくとも集金力と場を読む力はある。これからしばらく注視しなくてはいけない政治家がまた増えた。(敬称略)

プレミアム商品の力

「オールド・リップ・ヴァン・ウィンクル(以下ウィンクル)」

この長い名前を読まれてピンときた方はバーボン・ウィスキーに精通されているに違いない。

バーボンでもワイルド・ターキーやメーカーズ・マークなどは日本でも馴染みが深いが、ウィンクルとなると「知る人ぞ知る」銘柄だ。アメリカでも町の酒屋の棚に並んでいることは稀である。

なにしろウィンクルの年間生産量は7000ケースほどだ。適切な比較対象ではないが、ビールのミラー社ミルウォーキー工場が1日に生産する量は約50万ケース。フランスのワイン、ロマネ・コンティが年間6000本ほどなので、量的にはこちらに比類する。

ウィンクルの年間売上は200万ドル(約1億6600万円)ほどでしかない。薄利多売によって大きな利益を出すビジネスモデルの対極に位置するが、家族経営なので十分に採算は取れている。しかも100年以上もこだわりのバーボンを作り続けることで希少価値はさらに高まり、今ではプレミアムがつく。

たとえば15年モノのウィンクルは市場価格が70ドル(約5800円)前後だが、小売店によっては入手の難しさから、いきなり150ドル(約1万2500円)の値がつくこともある。江戸時代から連綿と受け継がれた陶芸に高値がつくのに似ている、、、、(続きは堀田佳男公式メールマガジン『これだけは知っておきたいアメリカのビジネス事情』)。

私の参加する勉強会の主である長妻昭が新刊本を出した。

消えた年金問題で自民党を糾弾した男が、民主党政権誕生で厚生労働省のトップになり、その後、大臣の座から降ろされる経緯が率直に語られている。

民主党は揺れ動いているが、長妻の考えにブレは見られない。揺れ動いたのは民主党幹部である。

自身の信念を貫き、首相とも官房長官とも言い合うのが長妻だ。市民には見えない驚くべき官僚の実態や彼らとの軋轢が軽快なタッチで描かれている。(敬称略)

                         

        招かれざる大臣 政と官の新ルール (朝日新書)

ある書店の倒産(2)

先日のブログで記したように、全米第2位の規模を誇る書店ボーダーズが倒産した(ある書店の倒産 :詳細版)。

                                      

   

                                        

今ある600店以上の店舗すべてが閉鎖されるわけではないが、200店ほどが閉じられ、再生に向けて新たなスタートが切られる。もちろん平坦な道のりではないし、実質上の倒産である。

インターネットの時代に入り、町の書店が苦戦していることは子供でもわかる。少なくとも過去10年、経営陣はネット時代にどう利益を上げていくかを策定すべきだったが、実践できなかった。むしろボーダーズは逆の流れに進み、書店数を増やして国外での店舗展開を行った。経営判断ミスだった。

ボーダーズが潰れたことで、ネット書店のアマゾンと業界最大手のバーンズ&ノブルの両横綱に書店業界が席巻される図式ができた。

ボーダーズの債権者はペンギン・パットナムをはじめ、サイモン&シュースター、ランダム・ハウスといった大手が含まれる。それぞれがボーダーズに対して30億円前後の貸しがあり、アマゾンとバーンズ&ノブル以外、これからガタガタと音をたてて崩れていく憂慮さえある。

フォレスター・リサーチが昨年発表した報告書は、2025年までに新刊本の4分の1は電子書籍になると記している。たぶん電子書籍の流れはもっと早い。

昨年のクリスマスに電子リーダーをプレゼントされたアメリカの子供たちの中には、もうゲームはやらず、テレビも観ず、ひたすら電子リーダーで本を読むようになった小学生がいるという。

歴史を振り返ると、時代が代わる移行期というのは「つらい時期」ではあるが「楽しい時期」でもある。抵抗するだけ無駄ということである。

CEOの選び方

アメリカの大手企業CEOの選び方に変化が生まれている。

「企業トップを誰に継承させるか」は大企業だけでなく中小企業にとっても大きな課題だ。日本の中小の場合、約7割が息子や娘といった親族が後継者になる現実がある。それが企業にとって最善の選択であるかの疑問は残るが、アメリカ大企業の場合、CEO在任期間が過去10年で8.1年から6.3年へと早まり(Booz&Co社の報告書)、退任年齢も53.2歳と若くなっている。企業も時代の変化に合わせざるを得ない環境になってきている。

それでは新しいCEOはどういった形で選ばれるのか。

取締役会が新CEOを決定する過程で近年、考慮される要件は国際畑の経験者で、ファイナンスや製造分野よりマーケティングや営業分野での経験があること。複数の業界で経営に携わったエネルギッシュで若い人というものだ。

好例がキャンベルスープの現COOデニース・モリソン氏で、今年8月にCEOになる予定だ。彼女のキャリアは世界最大の一般消費財メーカー、プロクター&ギャンブルを皮切りに、ペプシコ、ネッスル、ナビスコ、クラフト・フーズと渡り歩いた後、キャンベルスープに移った。まだ50代の若さで、過去7年は同社の世界市場の営業と顧客管理の社長を務め、前述の要件を兼ね備えている、、、、(続きは堀田佳男公式メールマガジン『これだけは知っておきたいアメリカのビジネス事情』)。