これくらいでいい、、、

昨年は「雇用」と「いのち」。今年は「将来の成功」と「平成の開国」。

日米両首脳が年頭の演説で口にしたテーマである。

ネットで二人の全演説を観た。菅は官僚の書いた硬い文章に目を這わせ、必至な形相で読み上げる。一方のオバマは時々笑いをとりながら、テレプロンプターに映し出される原稿を読んでいく。文化の違いもあるが、オバマの演説のうまさは相変わらずだ。

所信表明(日本では施政方針)演説は、国のリーダーとしての意気込みを語るもので、象徴的なイベントである。民主党のマニフェストと一緒で実行がともなわなくとも罰されはしないが、政治家としての責任が問われる。

毎年、両国首脳の演説内容を比較しているが、今年は特に日本の内向き志向を如実に示すくだりが多かった。菅はこう言った。 

「内向きの姿勢や従来の固定観念から脱却する。そして、勢いを増すアジアの成長を我が国に取り込み、国際社会と繁栄を共にする新しい公式を見つけ出す」

その中には経済連携の強化や新成長戦略、雇用対策や社会保障の充実が入るが、私が「内向き」という言葉を使う理由は「、、、交渉の再開、立ち上げを目指します」「、、、工程表を着実に実施します」「雇用対策全般も一層充実させていきます」という言い回しに終始しているからである。

背後には「今あるものをなんとかこなします」的な消極的な態度がみえる。政治家や官僚だけでなく、日本中がそうした空気に覆われている。間違っても、「日本を再び世界をリードできる経済力のある国にしていく」とは言わない。

ところがオバマは演説でなんと言っただろうか。

「アメリカは単に地図上の国家としてではなく、世界に光を与えてきたリーダーシップを今後も維持していく。(中略)アメリカ経済はいまでも世界最大で、もっとも繁栄している」

そしてどの世代の人間も犠牲をいとわずに新時代の要求に応えるべく、戦わなくてはいけないと国民を鼓舞した。さらに「アメリカをビジネス上、最善の場所にしなくてはいけない」と語り、教育に力を入れ、イノベーションを促し、国家建設にいそしんで、未来を勝ち取らなくてはいけないと告げる。

こうした積極的なくだりを耳にすると、私はうな垂れるしかない。ガクーン、、、、である。

そして最後にオバマは「夢とは何か」というフレーズを口した。そしてアメリカンドリームはまだ生きていると説くのである。

                          

 

                                                  by the White House            

30年前であれば、まだ日本にもこの種の熱い演説に酔う空気があったかもしれない。いま仮に菅が同じセリフを述べたら、逆に虚しさからしらけるかもしれない。

今の日本は「これくらいでいい、、、」で満たされている。たぶんもう2度と世界1を争うポジションには戻ってこないかもしれない。(敬称略)