刀をつくる

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先日、ある職人の世界を垣間見た。刀工の現場である。

「えっ、いまだに日本刀を作っている人がいるの?」

そういう疑問が発せられても当然である。ほとんど世に流布していなので、知る人は少ない。現在、日本刀を作っている刀鍛冶は全国、いや世界中に200人いるかどうかである。

実は文化庁が毎年行っている美術刀剣刀匠という試験に合格した者だけが、刀を作れる資格をもっている。その一人、群馬県富岡市に工房を構える石田國壽を訪ねた。

刀の材料となるゴツゴツした玉鋼(たまはがね)から、指を置いただけで切れてしまいそうな鋭い作品に仕上がるまでの全工程を、一人だけで丹念にこなす。鉄を収斂させていく初期過程では、1360度にまで鉄を熱する。オレンジからイエローに近い色になったところで叩いて伸ばし、切れ目をいれて折り返す。それを何度か繰り返す。

「穴があいても構わない服装で来てください」

叩いた時に火花が四方八方に散る。刀工の見せ場でもある。赤松の炭がボウボウと燃え、工房の中は冬場でも30度近くになる。

「刀ヒトフリを作るために12キロ入りの炭を20俵から30俵は使います」

精緻と豪放を同居させながら、1カ月にヒトフリ、フタフリを仕上げるのがせいぜいである。800年ほど前から日本刀が作られ、古刀の人気は今も高いが、21世紀になっても刀は生まれ出ている。

作品を手にすると、ひたすら寡黙にさせられる。それほどの威力が宿っている。石田の作品は160万から180万円ほどだが、鎌倉時代の名刀には数千万の値がつくものもある。

また新しい世界が眼の前に広がった。(敬称略)

            

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                                               Photos by 萩原美寛