上村愛子にはなんとしてもメダルを獲ってほしかった。
しかし、現実は厳しい。4年前のトリノで悔しい思いをし、その後、メダルをめざして筋力トレーニングを積み、過酷な練習をこなしてきたがメダルには届かなかった。
実は上村と同じような思いを抱いていた選手が他にもいた。4年前、上村と同じようにトリノで惨敗し、試合後に大泣きしたハナ・カーニー(アメリカ)である。
トリノでは勝つつもりだった。しかしメダルも獲れず、数カ月は敗戦のショックからふさいだ。ようやく練習を再開した頃、今度はヒザを負傷し、ほぼ1年間は満足に滑ってもいない。トリノのショックは予想以上に大きく、トラウマは数年におよんでいた。
けれども上村同様、アスリートは練習をすることで自信という階段を一歩一歩登っていくしかない。カーニーはコーチのメニューを着実にこなしていく。昨夏、プールに着水するジャンプを1000回ほどこなした。スキー場でのジャンプは計1万4000回を超えたという。上村も同じように練習したはずだ。
カーニーは昨シーズン、ワールドカップで総合優勝をはたすが、今シーズンはスランプに陥っていた。1月のユタ州での大会では勝てずに、やはり大泣き。
しかし14日(日本時間)の本番で、カーニーはディフェンディング・チャンピョンのジェニファー・ハイル(カナダ)を破って金メダルを獲る。
何がカーニーと上村を分けたのかは、私にはわからない。実際に二人を取材していない。取材したとしても、その差は目に見えるものではないだろう。
15日朝、民放の解説者は「カーニーは本能で滑ったような気がします」と言ったが、何万回もの練習のあとの滑りであり、本能で勝てる競技でないことがわからないのだろうか。
二人には同じ努力賞を授けたいが、いまの上村はそんなものを喜ばないだろう。