橋下知事に必要なもの

大阪府知事の橋下が涙をみせた。それ自体に大きな意味があるとは思わないし、ヒラリーの涙落と同類であるとも思わない。

ここでの問題は橋下の改革案の見せ方にある。17日、府庁で43市町村の首長に財政削減案を示したが、いくら改革プロジェクトチームを組んでも1対43という立場で優勢な議論を展開できるわけもなく、説得もできない。

知事に当選してから、財政改革と重要政策立案の2つのプロジェクトチームを作った点は結構である。今年度予算で1100億円の金額を減らそうという心意気も買う。改革にはスピードが必要だからだ。

だが、橋下がやるべきことが2つある。最初は43人の首長との接し方だ。相手は10も20も歳が上の老練な政治家である。地元自治体への補助金が削減されて喜ぶ人間はいない。しかも、わざわざ1対43という構図で、浪花節的に涙をみせて「お願いします」でコトがうまく運ぶわけがない。

彼にプロの政治コンサルタントはついているのだろうか。政治はある意味で国民の面前で執りおこなうショーである。これからはプロの演出家をつけるべきだ。日本では首相官邸でさえ、その道のプロが勇躍しているとの話を聞かないので、橋下のもとには府庁職員がついているだけだろう。

17日、橋下は1対43ではなく、23対21になるくらいの勢力を前もっと作る必要があった。首長たちの反応をみると、17日に始めて具体的な改革案に触れたような印象だ。根回しはしたのだろうか。見せ方とアプローチのしかたが下手すぎる。

別に43人を同時に集める必要もなかった。個別に府庁に呼び出して、橋下案を支持する内外の専門家と一緒に10対1で攻め落とせば削減案を飲ませることはできたかもしれない。 

さらにプロジェクトチームが作成した財政改革案には「削減」の文字しか見えないように思える。財政削減をするにあたり、余分な脂肪を落とすことは必須だが、同時に新陳代謝を高める必要がある。それでないと引き締まった体は作れない。

すでに大統領選挙レースから退いたジュリアーニがニューヨーク市長だったとき、財政再建に成功したカギは減税だった。減税?税収が減るだろう、とお考えかもしれないが、彼は税を減らすことで消費を高め、法人のビジネスを加速させ、長期的には大幅な歳入増を実現させた。

どの国でも単年度で多額の赤字を黒にすることは無理だが、複数年府政を司る知事は首相とちがって不可能な仕事ではない。橋下は弁護士ではあっても、プロの政治家として見せ方と内外の行政手法をいろいろと学ぶべきである。(敬称略)