ヒラリーとオバマ

「これだけは外せない」というものを、多くの方が持っている。わたしにとって外せないものはアメリカ大統領選である。ライフワークとさえ言えるので、その動向はどうしても気になる。

東京にもどったので候補の遊説を直接取材することはかなわないが、いまはインターネットの「YouTube(ユーチューブ)」で遊説の様子を観られるから、その場の雰囲気はずいぶんと伝わる。

もちろん現場の臨場感や舞台裏でのスタッフの動き、有権者の反応などを直接取材できない歯がゆさは残る。しかし、地球の裏側にいても取材先と連絡を密にとると、ワシントンで取材していたときより数歩遅れをとるくらいの印象である。

2日前も、ヒラリーの選挙対策委員会委員長であるパティー・ドイルからEメールが入り、4月26日にサウスカロライナ州オレンジバーグで行われた民主党候補8人による討論会の模様が伝えられてきた。

ドイルはヒラリーの選挙参謀の中では右腕といえる人物だ。もちろんヒラリーのマイナス点を口にすることはないので、討論会でのヒラリーが「オバマを含めた誰よりも政治家としての強さが光っていた」と褒めちぎる。

オバマが支持率でも選挙資金額でもヒラリーのすぐ後ろにピタリとつけてくる脅威を感じているだろうが、認めようとしない。特にメディアの前では強気一点張りである。選挙で弱みを見せることは許されないのだ。

一般的に、候補自身や関係者は支持者にしか囲まれていないので、全体像を見失いないがちになる。そのため落選した時のショックは大きいし、どうして票が伸びないのか理解できなかったりする。外にいる人間であれば、説明する必要がないと思えるほど落選の理由がわかっていても、本人はいたって本気である。今回の選挙でいえば、バイデンやリチャードソンには勝ち目はない。しかし本人は真剣である。

2008年大統領選挙の争点はイラク戦争に集約される。先日インタビューしたワシントン・ポスト紙の記者、ボブ・ウッドワード(文藝春秋5月号参照)も「1にイラク、2にイラク、3にイラク」と話していた。ただ、ヒラリーにしてもオバマにしても米軍がイラクから撤退するだけでイラクに和平が訪れるとは思っていない。

問題は米軍を退かせたあとにいったいどれだけの安定化策を施せるかにかかっている。だがそこまで踏み込んで具体的な話をしている候補はまだいない。

今度、ドイルにはそのあたりのことを問い詰めてみようと思っている。(敬称略)